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『オタク的想像力のリミット―“歴史・空間・交流”から問う』宮台 真司【監修】/辻 泉/岡部 大介/伊藤 瑞子【編】(筑摩書房)

オタク的想像力のリミット―“歴史・空間・交流”から問う

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「再び「オタク・オリエンタリズム」を超えるために」

 本書は、2012年2月28日の書評空間でも詳細させていただいたオタク文化に関する論文集『Fandom unbound : Otaku Culture in a Connected World』(Yale Unversity Press)の日本語版にあたるが、大幅な加筆が施されており、ぜひ改めてここで評しておきたい。

 サブタイトルにもあるように、本書では今日隆盛を極めるオタク文化について、社会学的な理解を深めるため、「歴史」「空間」「交流(=コミュニケーション)」といった三つの視点からなるそれぞれパートを設けており、さらに日米の一線級の研究者たちの論文を収録したという構成については、英語版とあまり変わるところはない。

 だが、日本語での読者を特に意識して行ったのは、今、日本社会においてオタク文化を考えることの意義を強く訴えた序章を新たに記すとともに、監修者として宮台真司氏を迎え、オタク文化に至る歴史を総合的に紐解きつつ、今後を展望する1章および終章を加えたということである。

 評者と共編者の岡部大介氏が記した序章でも触れたことだが、オタク文化は、今日では一見人口に膾炙したかに見えて、未だにその深層についての理解は進んでいないように思われる。

 いわば日本国内においても、「『とりあえずアニメが好きです』って言っておけば、話のネタになる」といったように、表層的なコミュニケーションツールには成りえていても、その文化としての来たる由縁や、詳細な実態について知りえている人々は多くないだろう。

 また諸外国においても、いかにオタク文化がグローバルに評価されているとはいえ、その受容や研究のされ方を見ると、極端にいえば「ゲイシャ・フジヤマ・シンカンセン」といったものと同列に、珍奇なものとしてステレオタイプにまなざされているだけではないかという印象がぬぐえないのも事実である。

 こうした意味において、オタク文化は依然として国内外の両方面から「オリエンタリズム的な視点」にさらされていると言わざるを得ない。

 本書では、こうした状況を打破すべく、主として社会学的な視点を元にしつつ、先に述べた「歴史」「空間」「交流」という三つのパートから理解を試みようとしている。

 そして新たに加わった終章においては、その未来についても展望しており、いわく「オタク・オリエンタリズム」が乗り越えられるのは時間の問題で、それはオタク・コンテンツが持つ「文脈の無関連化機能」によるのだという。

 さらに本書には、東浩紀氏の『動物化するポストモダン』、北田暁大氏の『嗤う日本のナショナリズム』、森川嘉一郎氏の『趣都の誕生』といった必読文献からもそのエッセンスが採録されており、まさに監修者の宮台氏をして、「さらなるオタク研究のために、考え得る限りで現在最良の論集」(2014年3月25日7:53のツイートより)と評した内容となっている。

 広くオタク文化に関心のある方に、ぜひお読みいただきたい一冊である。


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