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『ハワイ音楽パラダイス』山内雄喜・サンディー(北沢図書出版)

ハワイ音楽パラダイス

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「ハワイの風が吹く本」

 ハワイに一度でも行った人は、あの島に吹く不思議にやさしい心地よい風を覚えているだろう。まさにあの風がこの本の中に吹いている。

 この本は、ハワイ音楽のエキスパートでスラックギター奏者の山内と、フラダンスも踊る歌手サンディーの対談を基調とした構成で成り立っている。ところどころに挟まるコラムではハワイやハワイ音楽についてわかりやすく解説してあるので、たとえばスラックギターという楽器を知らない人(私もこれを読むまで知らなかった)でも、読んでいるうちにその機能はもちろんその楽器の心までわかり、彼らの世界に入り込めるようになっている。

 山内は少年時代に聴いたハワイ音楽にあこがれて、大学卒業後単身ハワイに乗り込む。飛び込みで門をたたいて内弟子となった先のギタリストやその仲間たちは、まさにハワイの風が育んだネイティヴハワイアン気質。優雅とすら呼べる彼らの生き様がなんとも面白い。彼らの生活の中に飛び込んで暮らした山内は、音楽の楽しみを大切にしたいからと、あえてアマチュアの道を選ぶ。帰国後家業を継いだという彼の本業はなんとコンニャク屋だ。コンニャクもイモから作るせいか、ハワイの人々の昔ながらの主食であるタロイモにも妙な親しみを感じるという。

 一方サンディーは、生まれは日本ながらハワイ育ちである。朝早くハチと戦いながら採ってきた花で作ったレイをつけて踊ると、自然から力をもらえるようでいくらでも踊れると言う。上手なフラはすばらしい風を生み、その風が見る者を包み込む。ハワイの歌や踊りは自然と切っても切れないもので、それは自然体で生きていくことにつながると言う。感覚的な内容ながらも幸せの青い鳥の所在が見えてくる感じがする。

 二人の素朴なミュージシャンの気張らない会話に溶け込み、同席しているような錯覚を覚えながら読み進むうちに、気がつくと自分が抱えていたつまらない焦りがすうっと消えていくのを感じた。

 日本に居ながらにしてハワイに連れて行ってくれる、行間からパラダイスの香りがしてくる本である。

(文中敬称略)


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