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『Sammy’s House』Kristin Gore(Hyperion)

Sammy's House

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アル・ゴアの次女が書いた政治ラブ・コメディ」

 ハーバード大学卒業。在学中に大学ユーモア雑誌『ハーバード・ランプーン』誌の編集長を務める。そして、エディー・マーフィーやトム・ハンクスなどを輩出したTVコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』のライターとしてエミー賞候補となる。

 この経歴の持ち主が元アメリカ副大統領アル・ゴアの次女であるクリスティン・ゴアだ。この本は彼女が著したホワイトハウスを舞台とした政治ラブ・コメディ。主人公は副大統領の下で医療関係のアドバイザーとして働く20代の女性サマンサ・ジョイス。軽快なノリと女性ならではのユーモアが魅力の本だ。

 クリスティンがサマンサを主人公とした政治ラブ・コメディを書くのはこれが2冊目。最初の作品は上院議員ロバート・グレイの元で働くサマンサの物語『Sammy’s Hill』だった。この作品はニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに入り、コロムビア・ピクチャーズが映画として上映する予定だ。

 今回の『Sammy’s House』はロバート・グレイがアメリカ合衆国の副大統領に選ばれ、それに伴いサマンサもホワイトハウスで大統領であるワイ政権の中で活躍をするという設定だ。

 物語は誕生したばかりのワイ政権が開催した船上パーティの場面から始まる。退屈なパーティはストリッパーの登場で雰囲気が一変する。誰が考えても政府のパーティにストリッパーはまずい。下品な音楽がステレオから流れるなか、大統領の首席補佐官がストリッパーの身体を自分のジャケットで覆う。しかし、その間にカメラのシャッターが切られる。プレス関係者は乗船していないが、この騒動は珍事としてメディアに漏れるのは間違いない。ストリッパーは「私はエクスターミネーターからの贈り物よ」と言う。エクスターミネーターとは前政権の関係者の集まりで、シンクタンクなどを設置し本格的な政策妨害もするが、今の政権をおちょくる悪ふざけも仕掛けてくる団体だ。ストリッパーが踊りをやめたころ、船の近くで大きな爆発音が響く。サマンサは反射的に船から川に飛び込んでしまう。水の中にいる彼女の目に映ったものは、にやりと笑ったネズミの形をした花火だった。サマンサはうんざりしながら犬かきで船に戻っていく。

 この本のもうひとつの面白さは、登場人物のモデルが誰かをつい想像してしまうところだ。サマンサのボスであるグレイ副大統領のモデルはやはり父親のゴアだろう。サマンサの働くホワイトハウスは次から次へとスキャンダルに揺れる。大統領は執務中に隠れて酒を飲むアルコール中毒者であることを副大統領にも告げていない。そればかりか、サマンサたちがインドの製薬会社から秘密裏に輸入した薬物を大統領が常用し始める。大統領スキャンダルの設定はビル・クリントンと接していた経験からだろうか。また、前政権の大統領をきついユーモアを交えて批判しているが、これはいまのブッシュ大統領をモデルにしているのではないかと思わせる。

 そうして、サマンサのボーイフレンドは『ワシントン・ポスト』紙の優秀な記者であるチャールズだ。彼からのプロポーズを待つサマンサだが、チャールズはニューヨーク支局に異動となってしまう。チャールズと長距離恋愛を続ける間に、サマンサはテレビニュース番組の司会者、女性上院議員、ハリウッドスターに言い寄られる。一方、チャールズは女性のルームメイトとニューヨーク生活を始める。

 スキャンダルを暴こうとする『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者、ホワイトハウスのスタッフ以外は知ることのできない情報が掲載されるブログの存在、そうして大統領の危うい行動などに取り囲まれながらも、サマンサは一生懸命すべての事態を乗り越えようと全力を尽くす。

 父親が8年間ホワイトハウスで務めた経歴から生まれた、サマンサのホワイトハウス奮闘記は可笑しく、ときには考えさせられ、最後には心が温まる物語だった。

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