『Armageddon in Retrospect』Kurt Vonnegut(Putnam)
「さよならカート・ヴォネガット」
僕が初めてカート・ヴォネガットに会ったのは2000年のことだった。
その時僕は『Grand Central Winter』を出版した作家リー・ストリンガーから本のリーディングをやるという連絡を受けていた。ストリンガーはその時までに2度ほどインタビューをした作家だった。
セブン・ストーリーズ・プレスというニューヨークにある独立系出版社主催のそのリーディングに出かけると、ストリンガーと一緒に並んでいたのがヴォネガットだった。
セブン・ストーリーズ・プレスは小さいながらもカートとマークのヴォネガット親子の作品を出版している。
ストリンガーがリーディングをした本は『Like Shaking Hands with God』という本で、「A Conversation About Writing」という副題がついていた。つまり書くという行為について作家が語った本だ。語るのはストリンガーとヴォネガットのふたりの作家だった。僕はリーディングが終わったあと、ヴォネガットと5分ほど話をした。しかし、彼は終始不機嫌そうで、僕はすぐに会話につまってしまったことを憶えている。
縁とは不思議なもので、いま息子が通っているプリスクールのクラスに、セブン・ストーリーズ・プレスの発行人の息子も通っていて、僕たちは時々顔を合わせる仲となっている。
ところで今回紹介する本は昨年4月11日にこの世を去ってしまったヴォネガットの未発表の作品を集めた『Armageddon in Retrospect』。
内容は第二次世界大戦でドイツ軍の捕虜となったヴォネガットがフランスの赤十字クラブから父に宛てた手紙や講演のために用意した原稿(日付が4月27日となっているので、この原稿は読まれることはなかったのだろう)、そのほか短編などの作品が収められている。
息子のマークが担当したイントロダクションには、ヴォネガットの複雑な人間性がよく描かれている。
薬を大量に飲んで病院に収容されたヴォネガットに、精神分析医は抗鬱剤を投与しようという。ヴォネガットはすぐに他の患者と仲良くなり楽しそうにピンポンなどをしている。
「He doesn’t seem to depressed(そんなに鬱じゃないようだ)」とマークは答える。
「He did try to kill himself(彼は自殺しようとしたんですよ)」と医者は言う。
「It’s very hard to say what Kurt is. I’m not saying he’s well(カートがどういうふうかを言うのは難しい。元気というわけじゃないんだけどね)」とマークは言う。
楽天的な厭世家、自分の内面に目を向けた外交的な作家ヴォネガットの作品はやはり感じるものがあった。この本には彼のアートワークも収められている。