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『The Ascent of Money : A Financial History of the World』Niall Ferguson(Penguin)

The Ascent of Money : A Financial History of the World

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「お金と社会の長い歴史」


 ニューヨークに住んでいると、大きな額のお金を実際に見ることが少ない。家のローン、電話代、電気代などはインターネットやチェックと呼ばれる個人小切手を使って支払いを済ませる。入ってくるお金も銀行振込か会社の小切手で送られてくる。

 日々のスーパーでの支払いも、例えば牛乳1パックでもカードを使い、マクドナルドやサブウェイなどのファーストフードの支払いもカード、地下鉄のメトロカードの購入にも自販機でカードを使う。本はインターネットで頼みこれの決済も登録してあるカード。そしてそのカードの支払いはインターネットで銀行の口座から直接引き落とされる。

 僕にとってのお金は、硬貨や紙幣から銀行口座の記録にある数字に代わってきている。お金はいつから姿を変えるようになってきたのか。そもそもお金という概念はいつどうやって生まれてきたのか。

 人類にとっての最大の発明は車輪だといわれているが、お金も人類最大の発明品のひとつだろう。そのお金、そして金融、市場というものの歴史を追った本が今回紹介する『The Ascent of Money』。著者はハーバード大学とオックスフォード大学で教鞭をとるニーアル・ファーガソンだ。

 この本を読むと、お金や金融の発展の歴史は社会の発展の歴史だと分かる。

 ファーガソンはまず、お金発展の歴史の始まりとして4000年前のメソポタミアに遡る。この時代、人々は羊毛や大麦の取引の記録として粘土で作った権利証を使っていた。この権利証には「この権利証を有する者は、収穫時に目方330の大麦を得ることができる」などの文字が記録されていた。この種の権利書は、譲渡可能な金融商品であり、すでにお金の発展が始まっていたことがわかる。

 またファーガソンは、イタリア・ルネサンスにはメディチ家の両替商としての成功が欠かせなかったことや、殺人者、博打ちだったジョン・ローという人物がフランス王室に取り入り作り出したバブル経済とその崩壊がフランス革命に繋がった経緯も追っている。

 そのほか、17世紀のオランダで生まれた株式会社の形態や、統計学の発達で可能となった保険システムの始まり、債券、担保証券などの歴史も記されている。

 「信用貸しと負債は、ほかの技術的革新と同様に文明の発展には重要なものだった。企業融資はオランダとイギリス帝国になくてはならない基礎だった」とファーガソンは記している。

 もうひとつ、興味深かったのはスペインの通貨と社会の歴史だった。スペインは大成功をしたヨーロッパの国だったが、あまりに成功し銀や金などが豊富にあったため、実際の通貨で莫大な支払いを賄うことができた。そのため、債券発行などという国としての金融システムの発達が遅れたという。

 お金の歴史を綴ったこの本は、もちろん現在にも通ずるもので、経済は常に流動的なものだと改めて理解できる本であるとともに、優れた歴史書でもある。


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