『Mistress Shakespeare』Karen Harper(Putnam )
「シェークスピアの恋」
いまから10年ほど前の99年に「恋におちたシェークスピア」という映画があった。この映画は作品賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞など多くの賞を受賞して脚光を浴びた。
僕はずっとこの映画を観ていなくて最近になってやっとDVDを借りて観た。ストーリーも面白かったが、1500年代の終わり頃のロンドンの街の様子が再現されていて、心が踊った。
作る側も歴史考証などを重ね、セットを組んでいくのはきっと楽しい作業だったに違いない。
映画を観た2週間後に読んだのが「Mistress Shakespeare」だった。新刊書籍として紹介されていて、ニューヨーク・タイムズ紙のブックレビューでも記事が載っていたので、近くのバーンズ・アンド・ノーブルまで行って買ってきた。
イギリスに残る公文書によると1582年11月の終わり、シェークスピアはテンプル・グラフトンのアン・ワッタリーという女性と結婚をしている。しかし、そのすぐ後に彼はショッタリー出身のアン・ハサウェイという女性と結婚したという記録がある。
ハサウェイは26歳、シェークスピアは18歳。そしてこの時ハサウェイはすでに妊娠3カ月目を迎えていた。
この史実をどう見るかは専門家でも意見が分かれるところらしい。
一つ目の解釈は実際にテンプル・グラフトンに違う「Wm Shaxpere(公文書はラテン語)」なる人物がいて、その人物がアン・ワッタリーという女性と結婚した。
つぎは、ふたりのアンは同一人物で記録者の単なる書き間違い。そして、3番目がシェークスピアはふたりの異なる女性と結婚をしていたというもの。
作家ウィリアム・シェークスピアの妻はアン・ハサウェイなので、このアン・ワッタリーという女性がどういう女性なのかが問題となってくる。当時のロンドンの事情は分からないが、18歳の青年が26歳の女性と結婚するというのは普通ではない気がする。妊娠3カ月ということであれば、よけいそのいきさつを勘ぐりたくなってしまう。
「Mistress Shakespeare」もこの3番目の仮説をもとに書かれた作品で、歴史小説仕立てになっている。
主人公は問題のアン・ワッタリー。彼女はシェークスピアと同じ年に生まれた幼馴染であり、恋人でもあるという設定だ。家族同士の仲がよくないふたりは家には内緒で結婚をしてしまう。
しかし、そのすぐあとシェークスピアは8歳も年上のハサウェイから妊娠を知らされる。周囲からの圧力もありハサウェイと結婚をする。そうして、秘密裏に行われたワッタリーとの結婚は、誰にも知らされないままだ。
しかし、シュエークスピアの心は揺れる。シェークスピアはワッタリーに、自分は誘惑されてしまったが、心は常に彼女のものだと手紙で訴える。
「ハサウェイ嬢が私の子供を身ごもっているとは知らなかった。たわむれの恋の時期はあったが、お互いに合うことはないと感じ彼女との仲に終わりを告げて君のもとに来たんだ、愛しい人よ」
しかし、社会的に受け入れられるのはシェークスピアとハサウェイとの結婚だ。傷心のワッタリーはロンドンに行くが、やはりシェークスピアのことが忘れられない。そしてある日、ロンドンで俳優として舞台に立つシェークスピアを見つける。
エリザベス1世時代のロンドンの様子や当時の演劇の世界も瑞々しく描かれており、別世界に誘ってくれる作品となっている。