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『Peanuts: a Golden Celebration』 Charles M. Schulz(Harper Resource)

Peanuts: a Golden Celebration

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「亡きシュルツと過去のアメリカを偲んで」


 先日、ある本を読んでいたら、スパーキーという少年のことが書いてあった。 

 

 スパーキーは中学生の時に数学、ラテン語、イングリッシュなど多くの教科で不合格となり、高校時代には女の子にデートを申し込むこともできなかった。

 卒業アルバムに得意の漫画を使ってもらおうとアルバム委員に渡すが断られ、卒業後も、ウォルト・ディズニー・スタジオに絵を送るが上手くいかなかった。スパーキーの周囲の人々は、彼は善良な男だが、ぱっとした人生は送らないだろうと思っていたという。

 この冴えないスパーキーが、1950年代から始まりアメリカの良心といわれるようになったコミック『ピーナッツ』の作者チャールズ・シュルツだった。

 ピーナッツの主人公であるチャーリー・ブラウンは、野球をやっては負け、凧を上げれば落ち、フットボールを上手く蹴ることさえできない。善良で冴えないチャーリー・ブラウンはスパーキーの少年時代をそのまま映している。

 中学生の時、通信簿の成績がオール3になって先生からよく頑張ったと言われ、クラスの書記に立候補しては落選し、積極性に欠けると評価を受け続けていた僕自身、日米の文化を超えてチャーリー・ブラウンに共感を覚える。

 シュルツは2000年の2月に、癌のために死んでしまった。彼はその数週間前に、『ピーナッツ』の連載中止宣言をしていた。亡くなった日は奇しくも、彼の最後の連載コミックが全米の二千を超える新聞に掲載された前夜だった。

 50年代から90年代までの『ピーナッツ』が集大成され、約千本のコミックが収められているのがハーパー・コリンズ社から発行されているこの『Peanuts: A Golden Celebration』だ。

 シュルツが飼っていた犬のスパイクがモデルとなったスヌーピーの当初の絵はもちろん、ルーシー、ライナス、ペパーミント・パティ、ウッドストックなどお馴染みのキャラクターが最初に登場した場面も見ることができる。シュルツ自身の説明も多く掲載されているので、何故そのようなキャラクターが生まれてきたのかも分かる。

 世界の多くの人々に親しまれた『ピーナッツ』の歴史を知ることができる重要な1冊だろう。


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