『A Coyote’s in the House』Elmore Leonard(Harper Entertainment)
「エルモア・レナードのヤング・アダルト作品」
僕は今はニューヨークに住んでいるが、昔2年ほどロサンゼルスに住んだことがある。
そのロサンゼルスで僕は三度居場所を変えた。初めはユニバーサル・スタジオの近くのアパートに住み、それからレイモンド・カーヴァーの短編にもでてくるサイプレスという、どこか乾いた荒野にいるような気分になってくる町に住んだ。
それから、ウィッティアというロサンゼルスの東にある小さな町に移った。ウィッティアのアパートの近くには広い公園があって、夕方そこによく散歩にでかけた。ウィッティアに住んでいる間、僕は二度野生の動物にばったりとでくわしたことがある。一度はアライグマで、もう一度はコヨーテだった。どちらもアメリカ西部の代表選手のような動物だったので、自分が西部の町に住んでいるんだな〜と変に実感したものだ。
今回読んだ、エルモア・レナードの『A Coyote's in the House』はロサンゼルスのハリウッド・ヒルズをなわばりとする若きコヨーテ、アントワンが主人公となっている物語だ。
エルモア・レナードというと、映画になった『Get Shorty』や『Be Cool』などで知られている、独特の雰囲気がある犯罪小説作家だ。今回の『A Coyote’s in the House』は、レナードが彼としては初めて書いたヤング・アダルト向けの作品だ。
この物語を書くにあたり、レナードは初め主人公のアントワンの相棒となるジャーマン・シェパード犬のバディを主人公に書きだした。しかし、ジャーマン・シェパードでは『Get Shorty』や『Be Cool』に登場するシャイロック(借金取り立て屋)、チリ・パーマーのようなチンピラの格好良さはでない。そこで、レナードは主人公をコヨーテのアントワンに変えてこの物語を書き直した。
ねずみを追って家のフェンスを飛び越えたアントワンが、その家に住むバディに出会うところから、この物語は始まる。バディは、かつて何本もの映画に出演したスター犬だったが、いまは歳をとり映画の仕事もなくなってしまった。根っからのワーキング・ドッグであるバディには、家にいるだけのいまの生活に空しさを感じている。そして、バディの家にいるもう一匹の犬が、少しお高くとまっているプードルのミス・ベティ。彼女はドッグ・ショーでチャンピオンになったことがある犬だ。
アントワンに出会ったバディは、荒野を駆け巡る自由な生活を思い、自分がコヨーテの仲間と暮らし、アントワンが家に残りペットとなることを提案する。ミス・ベティに興味があるアントワンは、それも悪くないと考え、バディの提案を試してみることにする。
一方、映画の仕事がこなくなり、元気がなくなったバディを見てきたミス・ベティは、アントワンに近所の猫を誘拐させ、バディがその猫を救出して持ち主に返すという狂言芝居を思いつく。そうすれば、バディは映画のなかの主人公のようにまたヒーローになることができる。アントワンもミス・ベティの考えに賛成してバディをヒーローにしようとするが、話は思わぬ方向へ展開していく。
最後はハッピーエンドに終わるが、アントワン、バディ、ミス・ベティの三匹が出会ったことで全員が少しずつ変わっていく。いうなれば、みんなの心が少し成長したのだ。ヤング・アダルト向けの物語なので、英語のほうもそれほど難しくなく、レナードの作風であるスピード感もたっぷり味わえる楽しい本だ。