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『True Prep 』Lisa Birnbach(Alfred A. Knopf)

True Prep

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「新たなプレッピーのハンドブック」

1980年。ニューヨークでプレッピー・ファッションが流行しだした頃、僕はマサチューセッツ州ボストンで大学生をやっていた。81年にはハーバード大学でサマーコースを取り、ハーバード・スクエアーにあったJ・Pressの店を覗いた。確かその夏の記念として、J・Pressでシャツだかジャケットだかを買った記憶がある。

80年代はプレッピー、ヤッピー、ディンクスなどの言葉が普通の人々の間でも聞かれ出した時代だった。当時、僕は気がつかなかったが80年にプッレピーのガイドブックといえる「The Official Preppy Handbook」なる本が出版された。

日本でもバブルの時代と共にプレッピー・ファッションが流行した。そして、「The Official Preppy Handbook」は日本語の翻訳版が出て、日本でも売れた。今、古本でこの本を探すと日本語版でも原書でも結構値段が高い。僕はこの本を読んだことがないが、30年の時を経て出版された続編「True Prep」は買った。

ボストンで大学生をやったお陰で、今もファッションはアイビー/プレッピーが好きだ。80年代当時はプレッピー・ファッションの対抗軸としてヨーロピアンのファッションがあったようだが、2012年の現在はその対抗軸がヒップ・ホップ・ファッションとなっている気がする。

今回読んだこの本のなかに「The best fashion statement is no fashion statement(最良のファッション・ステートメントは、なんのファッション・ステートメントも持たないこと)」という一文を見つけ、そうだな〜と納得した。

本はプレッピー・ファッションをこのように定義している。

プレッピーのファッションは:

*下着は見せない。パンツは上げる。ベルトを使う。

*スローガンの書かれたTシャツは着ない。

*ファッションに偏執狂的にならない。夏には白ものを多く着て、その白ものにしみがあってはならない。

*サスペンダーはボタン式もので、クリップ止めのものは使わない。

*男性が間違ってレザーのサンダルを買った場合は寄付に回すこと。

*男性の装身具は質の良い時計と結婚指輪だけ。

*蝶ネクタイを結べるようになり、取り付け式の蝶ネクタイはしない。

*ロゴを目立たせるファッションは、着ている人間の自信のなさの現れ。

しかし、プレッピーはファッションだけではなく、ライフスタイルだとも言える。80年代は、プレッピーと言うといわゆるWASPアングロサクソン系のプロテスタントの白人)たちのことを指したが、2012年の現在、プレッピーは人種を超えて存在している(オバマ大統領はプレッピーだ)。

プレッピーのライフスタイルはいわゆる「コンフォタブル(心地好い生活)」だが、決して成金趣味ではない。

例えば、バケーションにおいてプレッピーはファーストクラスでは飛ばず、マイレージ・ポイントを出来るだけ活用する。飛行機はコーチ・クラスを選ぶが、ホテルは有名なホテルに泊まる。バケーションの時のランチではお酒を飲むのが「義務」であり、午後に歩き回ることでその酔いをさます。

しかし、プレッピーが絶対に譲れないものがある。それは、アメリカでの私学での教育。アメリカの有名私学に子供を通わせるのは年間4万ドルほどの費用がかかるが、お金をかける価値は充分あるという。

その学校の名簿や学校の歴史に母親、父親、親戚の名前が登場するとこで自覚が芽生え、同じプレッピーの友人たちや、優れた教師たちに出会うことができる。

プレッピーという言葉は「プレパトラリー・スクール(名門私立学校)」からきているので、やはり名門私立での体験が基礎になるようだ。

アメリカの有名私学にいかなくとも、プレッピー・ファッションやプレッピー的な生き方は出来る訳で、プレッピー的な価値観を知るためにも「True Prep」はよい本だ。


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