『Bitch』Elizabeth Wurtzel(Anchor Books)
「バッドガールの作り方」
ニューヨークを捨ててサンフランシスコに帰ってしまったカメラマンが、僕にこう言ったことがある。
「新しい社会への反抗の仕方を考え付いた奴は、すごい金持ちになるよ」
そのカメラマンはバロウズやギンズバーグなどのビートニクたちを撮ってきた男で、パンク(つまりイギリスのセックス・ピストルズ)以降、社会に「反抗」にする新しいスタイルが生まれていないというのだ。
なるほど、と僕は思った。確かに、「反抗」の新たなスタイルを築き上げた者はお金が流れ込んでいくだろう。
しかし、考えてみればビートニク、ロスト・ジェネレーション、パンクなどは男の「反抗」の仕方で、女性の「反抗」の形態は六〇年代の中で現れたフェミニズムくらいしかないといっても間違いではなさそうだ。「Ms」を創刊させたグロリア・スタイナムだってもうだいぶ歳をとっているし、女性からの新しい声が上がっても不思議はない。
しかし、90年代のポッ・カルチャーの落とし子ともいえるエリザベス・ウォーツェルの 「Bitch」を読んで、女性の新たな「反抗」のスタイルはまだ誕生していないと思った。
同書の大きなテーマは「女性として、この世のばかばかしさの中で犬死にしないためにはどうしたらよいか」というものだ。
ウォーツェルはポップ・カルチャーの住人やアメリカを騒がしたニュースなどから題材を取り上げ彼女なりに分析し、先ほどのテーマに答えを出していく。
しかしウォーツェルの出す答えは「何をしたらよいか」というものより「何を避けるべきか」に焦点が当てられている。例えば、交際していた男の妻を銃で撃ったロング・アイランドの少女、エイミー・フィッシャーの例をあげ「女はセックスだけを武器にするべきではない」といい、ヘミングウェイの孫娘、マーゴ・ヘミングウェイの自殺を取り上げ「美しさだけに頼るべきではない」と語る。
その他、富、権力、名声、暴力などとどう自分を関わらせていくか、というよりどう関わるべきではないかを述べている。そして、女性を取り巻く社会的状況は決していいものではないことも様々な事象を取り上げ語っている。
自由を得たいならビッチ、つまり悪い女、言いなりにならない女、生意気な女、になるしか方法がないというのがウォーツェルのひとつの答えだが、同書はその選択の難しさ、落とし穴の多さを知らせてくれる。
しかし、具体的にビッチになるにはどうしたらよいか、という問の答えははっきりとは示されていない。というより、その選択の難しさにウォーツェル自身も答えを探しているようだ。