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『Bringing Up Bebe : One American Mother Discovers the Wisdom of French Parenting』Pamela Druckerman(Penguin )

Bringing Up Bebe : One American Mother Discovers the Wisdom of French Parenting

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「子育てレンチ・スタイル」

自分の母国ではない国で子供を育てるのはいろいろ戸惑うことも多い。その国の文化のなかで、子供とどう向き合うか。問題が発生した時に、どう解決していくかなど悩みは尽きない。

今はニューヨークで子育てをして、異文化、異言語のなかで子供を育てている訳だが、一方では僕は長年アメリカ住んでいる。しかし、それでも時々異質なものをアメリカに感じる。

特に違うと思うのは、子供と親の境界線の薄さだ。親の言うことを一方的に子供に押し付けることをよしとしない気風がアメリカにはある。これはよくも悪くもアメリカの子育ての特徴だと思う。

簡単な例を言うと、子供を公園に連れて行って砂場だけで遊ばせたいと思っている親がいるとする。しかし、子供は砂場に飽きてほかの場所に行こうとする。アメリカの親は1度や2度は砂場から出ないように注意をするが、最後は子供の希望を聞いてほかの場所でも遊ばせる。

親が恐れるのは、自分が子供の居場所を限定させることで、その子の自由な精神を摘んでしまうのではないかというものだ。

これが砂場ではなく、親への反抗、周囲に対する生意気な態度、公衆の場所でのふざけた態度、口答えなどいろいろな場面でみられる。

子供は一時的には意地悪、生意気、怠け者にみえるかも知れないが、自由さのなかで将来周りがびっくりするような大発見をするかも知れない。その自由な発想や気質を潰すのはよくない、という考え方が根底にある。

これは、アメリカの学校教育でもみられるもので、「自分を出していく」「言いたいことを言っていく」ことをよしとするところがある。逆に言えば、自分を出していき、言いたいことを言っていけさえすれば、それが社会的にみて芳しい内容でなくとも、言いたいことを言えないようにさせてしまうよりいいと教師側は思っている。

ということで、今回読んだのが、パリで子育てを始めたアメリカ人の母親が書いた本。著者のパメラ・ドラッカーマンはウォールストリート・ジャーナル紙の元レポーターだ。

パメラによるとフランスの子供たちのほとんどは生後2カ月で朝まで眠るようになり、子供たちはレストランでも行儀よく静かに座り、親の会話を邪魔することがないという。まあ、こういう本を書くに当っては、物事を全体的に見る作業が必要で、個人個人をみればそうでない子供もいるはずだが、彼女の見た多くの子供がそうだったということだろう。

アメリカ人であるパメラにとってはどれも考えられないことで、子供たちの態度の違いはどこから来ているだろうと考える。パリで子供を生んだ彼女は、フランス流の子供の育て方を身をもって経験し、それを報告している。

アメリカの学校では親子面談などをすると、あなたのお子さんはここが凄くよく、こんなこともできる、とまあ、教師が子供のいいところを見つけて熱心に褒めてくれる。しかし、フランスの学校ではそんなことはなく、「普通にできてますね」の一言くらいでで終わってしまうらしい。

公園で見かける親子の様子も同じような素っ気なさがあるという。例えば子供が鉄棒ができたら「凄い!やった!もう一度やってみて」と言うのがアメリカ人の親で、フランス人の親は別に特別な言葉はかけない。公園で、ワーワー騒いでいる親子を見てフランス人は「アメリカ人が来た」と思うらしい。

子供の世界に一定の枠を作り、その枠内では自由にさせるが、その枠を出る自由は与えないというのがフランス流の子育てで、枠を作ってもその枠が弱いのがアメリカ流といえる。大人の世界と子供の世界をはっきりと線引きするのがフランスで、大人が子供の世界に近づいていくのがアメリカといえるようだ。

今、僕はアメリカ流の子育てのなかにいるが、アメリカ人の視点で違った文化の子育て作法を知るのは面白かった。


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