『The Greatest Player Who Never Lived : A Golf Story』 J. Michael Veron(Broadway Books)
「史的事実も交えたエンターテインメント性の高いゴルフ・ストーリー」
もう二〇年以上昔の話となるがニューヨーク州ロングアイランドに住んでいた頃、近くにゴルフ場があったので、ゴルフ好きな友人に連れられゴルフをやった。
それまで、一度もクラブを握がない人間がいきなりコースをまわるのだから結果は知れたものだろう。1ホールにとてつもない時間がかかったが、平日の昼間のゴルフ場は空いていて後続の人たちに追い付かれることもなかった。コース使用料も安く十ドルもかからなかったように記憶している。
クラブ一式と自分で引っ張るゴルフカートをゴルフ場で借りコースに出てボールを打つ。ボールはころころと三メートルほど先まで転がったり、思いもよらない方向に飛んでいったりした。ひとりの友人を除いてほかはみんな僕と同じようなものだったので、僕たちのチームはてんでんばらばら、誰がどこにいるのかさえ分からないゲームとなった。
ひとりが林の中に消え、もうひとりがティーショットを打った場所に留まり、ひとりがずっと先まで進みと、各人が非常に個性的な動きをするゲーム展開となった。打数もこれが十三打目なのか十四打目なのか分からない。もうこうなると、十三だろうが十四だろうがどちらでも変わらなかった。
それから、二、三度ゴルフ場に行ったが、別に打ちっぱなしで練習をするでもなく、ただコースをまわっただけなので、僕のゴルフの腕は全く上達しなかった。以来、ゴルフはやったことがない。
こんなことを思い出したのは、今回読んだ本がゴルフ選手と殺人がからむ法廷スリラーだったからだ。
主人公は弁護士を目指してロースクールで学ぶチャーリー・ハンター。チャーリーは夏のインターンとして働いた弁護士事務所でボビー・ジョーンズという、すでに死亡した有名なゴルフ選手でありその事務所の弁護士でもあった人物が残した書類の整理をすることになる。ジョーンズの書類からチャーリーは、ビュー・ステッドマンという人物の存在を知る。
ステッドマンは殺人の罪に問われ逃亡を果たした若いゴルフ選手だった。ステッドマンはその逃亡生活のなかで名前を隠しつつ、アーノルド・パーマー、バイロン・ネルソンなど数々の一流プレーヤーと賭けゴルフをおこない、全員に勝利した。もし、ステッドマンがゴルフ選手として活躍できたなら、彼は歴史に残る成績を収めたはずだった。
世界的に有名なゴルフ・コースであるオーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブでのプレーの模様も交え、物語はステッドマンの身の潔白を証明するための裁判へと発展する。最後にはスッテドマンを殺人犯人と告発した家族の秘密が明かされる。
緻密な調査に基づくノンフィクションとフィクションが混ざり合い、物語に緊張感を与えている。
僕のようにゴルフをしない人間でも楽しめる本だった。