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『 California Fire and Life』Don Winslow(Vintage Books)

 California Fire and Life

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「放火調査官が活躍するサスペンス」

 アメリカの人気作家ドン・ウィンズロウのサスペンス『California Fire and Life』は、カリフォルニア州オレンジ郡を舞台とした作品だ。

 ウィンズロウは、53年にニューヨークで生まれた。ネブラスカ州の大学に入り、3年生の時に南アフリカに行き、ケープタウン大学の研究員兼フリーランスのレポーターとして暮らすが、南アフリカ最大の黒人居住区であるソウェイトで教室を運営するためにアメリカで集められた資金を運搬する役目も果した。

当時、この資金提供は南アフリカ政府により禁じられていた。つまり、彼はお金の密輸入をしたのだ。そのために逮捕されアフリカを去らなければならなかった。そしてアイダホ州で近所の人々にサラダ・ドレッシングを運ぶ仕事に就き、その後ニューヨークの映画館で働く。

 映画館では、不正を働いている上司を告発し、職場を去ることになる。次に彼は、盗難事件のおとり捜査官として雇われる。ウィンズロウはこれをきっかけに捜査官として働きだし、ロンドンやアムステルダムで仕事をした。そして大学院を卒業し、ケニアのサファリツアーを販売したり、アフリカにいるアメリカ人高校生の教育プログラムを作ったりしたが、最終的にはロサンゼルスで放火の調査官として長年働くことになる。

 『California Fire and Life』は、ウィンズロウのこの放火調査官の経験が活かされた作品となっている。主人公のジャックはカリフォルニア州にある災害保険会社の放火調査官。オレンジ郡にある家で火事が起こり、そこに住む女性パメラが焼死する。警察は、酒に酔ったパメラの火の不始末が原因と断定するが、ジャックは放火の疑いを持つ。死んだパメラが、ジャックのガールフレンドであるレティの父親の違う妹であったことから、ジャックはさらに真剣に調査を進める。

 旧ソ連出身でKGBと関係がある、パメラの夫ニッキー、カリフォルニアに暗躍するロシア人やくざとベトナム・ギャング。物語は、ギャングの殺人事件をからめながら保険会社幹部ぐるみの保険金詐欺事件となる。調査は、すべて犯人たちにつつ抜けとなり、ジャックは絶対絶命の窮地に立たされる。

 正確な描写と、凝った筋が冴える最後まではらはらどきどきのサスペンスだ。 

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