『Let’s Explore Diabetes with Owls』David Sedaris (Little Brown & Co)
「アメリカのユーモアリト、デビッド・セダリスの新刊」
ニューヨークで暮らしているといろいろ考えさせられるというか、気になることがでてくる。
そのひとつが健康保険の高さ。ニューヨークに住むアメリカ人は(ここに住んでいる僕たち家族も)日本では信じられない額を健康保険に支払っている。僕と妻がふたりで入っている健康保険はひと月約20万円。2万円ではない。20万円だ。それも掛け捨て。安い健康保険を探してもふたりで15万円以下を探すのは難しいだろう。
もし、健康保険を持っていなくて病気や怪我をしようものなら、例えば2日の入院で300万くらいは楽にかかってしまう。大げさに言っている訳ではなく、本当にこれが実際の状況だ。健康保険を持っていないと治療してくれない病院もある。
高い健康保険のせいで、保険に入れないアメリカ人も多いが、日本のように医療保険制度を政府が導入しようとすると、反対の声があがる。アメリカでもやっとこさオバマ大統領が政府による医療保険制度を導入したが、それでも反対の声は続き、いまも政府の医療保険制度(オバマケアーと呼ばれている)を無効にしようという投票が何度もアメリカ議会で行われている。
日本のような国民健康保険制度は、右派のアメリカ人に言わせると社会主義的なもので、個人の自由を制限するもとなる。政府が押し付ける健康保険はアメリカの精神に反すると声高に主張するグループがいる。
とここまでシリアスな調子で書いてきたが、今回読んだ本はアメリカのユーモアリスト、コメディアン、ベストセラー作家デビッド・セダリスの新刊「Let’s Explore Diabetes with Owls」。
フランスやロンドンなどで多くの時間を過ごすセダリスは、アメリカを外側の世界からの視点で語れる作家だ。この本には26本の作品が収められていて、多くはエッセーだが、6本は架空のキャラクターが語る社会風刺が利いたモノローグも入っている。
最初のエッセー「Dentists Without Borders」は、彼がフランスで通った医者の経験談。政府の医療制度があるフランスで、彼は医者や歯医者に行くが、その費用は安い。ある日、彼は脂肪の塊が身体の右側にあるのを見つけ最悪、癌だと心配し医者に行く。
その脂肪の塊を診た医者は「心配いらない。犬がよくかかる奴だ」とそっけない。セリダスはその脂肪を取り除くことはできるかと聞く。「取るには取れるが、なんでそんなことをしたいんだ」と医者は言う。まだ安心できないセリダスはさらに食い下がり、この塊が大きくなるんじゃないかと医者に質問する。
「そりゃ、まあ、大きくなるかも知れない」と医者は言う。
「凄く大きくなるのでは」
「ならない」
「なんでだ」
「知らないよ。じゃあ、何で木が空まで届かないんだい?」
アメリカではこんなとき、医者はいろいろな検査をし、患者の悲壮感を満足させるような小難しい病名を患者に伝えるはずだとセリダスは思う。
また、歯医者嫌いだった彼が歯医者のストーカーといえるほど歯医者好きになってしまったいきさつなど、ユーモアたっぷりに語られる。
その他、数多く旅をするセリダスはこの本で、中国の公共トイレ、日本の語学テープ、空港のセキュリティー、それにバレンタインデーにボーイフレンド(彼はゲイ)に贈ろうとしたギフトなどの話が風刺とユーモアを込めて語られる。
どの作品の数ページと短いので、細切れに読んでも楽しめる本だ。