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『THE BOOKS -365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』ミシマ社(編)(ミシマ社)

THE BOOKS -365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」

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 本が売れない時代だといわれます。出版業界は縮小の一途だそうです。人々が本を読まなくなったからでしょうか。みんな忙しいですからね。本を読む暇なんて刑務所にでも入らなければ捻出できない。そんな人もいるでしょう。それとも本がつまらなくなったのでしょうか。確かにベストセラーと言われる本が、昔に比べて少なくなりましたよね。つまらない本をつかまされて時間を浪費するよりは、テレビや映画やネットで暇をつぶした方がよっぽど有意義かもしれません。

 しかしなにか満ち足りない。猛烈な飢餓感がわきあがってくる。そんな風に感じたことはないでしょうか。小さい頃の自分がそうだったように、何もかも忘れて夢中で本を読みたい。脳がピリピリするほどの刺激を味わい、気づけば電車を乗り過ごし、読み終わった後はしばらく虚脱状態になってしまう。そんな、自分を夢中にさせてくれる一冊に出会いたい。そう思ったことはありませんか。ありますよね。今まさにそう思っているはずです。だから「書評空間」なんか読んでいるんです。……そうでしょう?

今年の春先のことです。

「すみません、突然ですが……『これだけは、どうしても届けたい』と思っている本、その一冊を教えていただけませんか?」

私たちは日頃お世話になっている本屋さんに、こんなお願いをしました。

『THE BOOKS』は、365人の書店員たちが「これだけは、どうしても届けたい一冊」を紹介する、まさに「本好きの本好きによる本好きのため本」です。365冊のオススメ本の書影の下には、書店員の実名と手書きのキャッチコピーも添えられています。オススメ本を選ぶにあたって、書店員さんたちは随分悩んだことでしょう。豊富な読書経験から抽出されるその一冊は、書店員としての「選書眼」を問われる一冊になるだけでなく、自分自身を表現する一冊にならざるをえないでしょうから。

 だからこそ、この本は、あなたの「自分を夢中にさせてくれる本に出会いたい」という欲求に答えてくれるはずです。何しろ「これだけは、どうしても届けたい一冊」が365冊もあるのですから。パラパラめくって読んでいけばビビビッとくる本が数冊は出てくると思います。「こんなジャンルもあるのか」「こういう内容の本だったのか」と、新しい気づきもあるかもしれません。

 気になる書店員さんを探す、という目的で読むのも手です。何しろ365人もいるのです。一人くらいは「この人、私と好きな本が似ている」という書店員さんがいるはずです。近所の書店に勤めていればなおラッキー。趣味嗜好が似ていて、かつ自分より読書量の多い書店員さんなら、あなたを夢中にさせてくれる一冊を教えてくれる可能性は高いです。次に行った時には、あなた専用のオススメ本も用意されているかもしれません。

「そんなこと言われたって、そもそも自分がどんな本が好きかわからないから困ってるんじゃないか」というあなた。こんな読み方はいかがでしょう。365冊の本には、それぞれ1月1日から12月31日までの日付が併記されています。毎日一冊、その日の本を読んでみるのです。1000本ノックならぬ365冊読書!1月1日からはじめれば、早くて3月2日、遅くても6月18日くらいまでには「好きだ」と思える本に出会えるのではないでしょうか。どうです? ぜひやってみてください! 私は…やらないけど…。

 本が売れない時代だといわれます。人々が本を読まなくなったのか。あるいは本がつまらなくなったのか。私はそのどちらも違うと思います。社会の成熟とともに趣味嗜好が細分化してしまった私たちは、「自分を夢中にさせてくれる一冊」とうまく出会えなくなったのだと思います。その仲立ちをしてくれるひとつの存在として、書店員という人々がいる。その潜在能力は私たちが思うよりずっと高いのですが、読者の前でそれが発揮されるシーンは決して多くありません。そんな彼らにスポットを当て、読者と結び付けてくれるのが、この本、『THE BOOKS』なのです。あなたはどのように読むでしょうか?


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