書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『ぼくが宇宙人をさがす理由』鳴沢真也(旬報社)

ぼくが宇宙人をさがす理由

→紀伊國屋書店で購入

 あなたは宇宙人の電波を受信したことがありますか。衛星放送に偶然別の惑星の番組が映ったとか、ラジオから聞き覚えのない言語が流れてきたとか、もしそんなことが起きたら。速やかに「地球外知的生命の発見後の活動に関する諸原則についての宣言」に基づいて行動しましょう。まず、できるだけ多くの天文台に連絡して電波が送られてきた方角を観測してもらう必要があります。本当に「地球外知的生命体」の仕業かどうか証明してもらうのです。証明されるまではむやみに公表してはいけません。矢追純一さんのようにテレビに出て喋ったりしては絶対にダメですよ。

 そして、それが「本物」だと証明されたら。所属する国家や国連事務総長に連絡しましょう。どのように応答するか国際協議で決まるまで待つのです。軽率な行動は慎んでください。勝手に人差し指と人差し指を合わせたり一緒に自転車に乗ったりしないようにしましょう。

 この決まりをつくったのは国際宇宙飛行学会のSETI(セチ)分科会というところです。「SETI」とは何でしょう。どこかで聞いたことがあるかもしれません。「地球外知的生命探査」のことです。この広い宇宙に自分たち以外の知的生命が存在するはずだという考えに基づき、地球外の文明が送信する電波をアンテナで受信すべく日々観測を続けている。それがSETIの研究者です。

 この本の著者、鳴沢真也氏もSETI研究者のひとりです。兵庫県西はりま天文台に勤める鳴沢氏は、地球外知的生命から電波が送られてくる日に備え、日々観測を続けています。彼はある日考えました。来るべきその日が本当に来たとして、果たして「地球外知的生命の発見後の活動に関する諸原則についての宣言」はきちんと機能するのだろうか、と。

(前略)ほんとうにその日が来ることにそなえて、今から準備をしておく必要があります。

 つまり同じ星をターゲットに世界じゅうの天文台で観測する練習をしておくわけです。そもそもSETIは世界が協力して観測したほうがいいのです。たとえば、遠く離れた二つ以上の国のアンテナで同時に電波が受信できたら、それは地上から送信されたものでないことがはっきりします。

 鳴沢氏は、この観測の練習をやるべきだと考え、実行に移します。それがこの本で語られる最初の挑戦「さざんか計画」です。計画は見事成功。ノリにノった鳴沢氏は、こともあろうか、今度は世界規模での実施を試みます。「地球外知的生命が地球人にコンタクトしてくる? そんなことあるわけないじゃん」と思いながら読んでいた私ですが、世界中の天文学者が真剣に「いざという日」に備える様子を読んでいるうちに「もしかしたら…」と落ち着かない気持ちになりました。

 しかし、この本の面白いところはそこだけではありません。もうひとつのハイライトは鳴沢少年の生い立ちです。信州に生まれ、四歳の時に人類初の月面着陸をテレビで見たという鳴沢少年。宇宙を夢見て育った少年は中学に進み、「将来は星や宇宙を研究する人になりたい」と思うようになります。ここまでだったらよくある話です。しかし鳴沢少年は、ある日突然学校に行くのをやめ、長いひきこもり生活に入ってしまうのです。

 この本は非常にやさしい文章で綴られています。SETIという難しい研究をわかりやすく読めるという点では大人が読んでも十分面白いです。しかし、鳴沢少年が長いひきこもり生活を脱して、天文台の研究者になるまでの道筋は、本来の読者、少年少女にこそ読んでほしい、と私は思います。

 ぼくも両親も深い谷底へ落とされたような思いでした。中学三年生で不登校になったときから、両親も言葉にならない不安を感じていたことでしょう。このときこそ、ぼくの夢はついに終わったと感じました。ぼくは数日寝込んでしまいました。限界です。もう大学進学はあきらめて、働きにでるしかない、そう思いました。

 その時の鳴沢氏、二十一歳。もはや少年ではありません。ひきこもりから脱するべく受験した大学は不合格。そりゃ両親も感じるでしょう、「言葉にならない不安」を。私が鳴沢氏だったらさらに深くひきこもってしまいそうです。しかしその時、鳴沢青年の頭の中をあるものがよぎります。「将来は星や宇宙を研究する人になりたい」という夢が、絶体絶命の鳴沢青年の背中を強く前へ押し出すのです。 

「何かひとつでいい、好きなものを持ちなさい」大人はみんな言います。しかし、すべての少年少女がそうなれるわけではありません。多くの少年少女はいつしか「何か面白いことはないか」「誰か自分を幸せにしてくれる人はいないか」そうつぶやきながら、うろうろと歩き回るだけの、他人に求めてばかりの大人になってしまいます。むしろそういう大人の方が多いですよね。

 好きなものを持つ、というのは誰にでもできることではありません。もしかしたら、宇宙に知的生命を探すくらい難しいことかもしれません。しかし、もし見つかったら。それはとても幸運でエキサイティングなことなのです。ぜひ、それが「本物」であることを証明して全世界に発信してください。鳴沢氏のように。

 最後にうまいこと言えました。面白い本です。少年少女、必読の一冊です。


→紀伊國屋書店で購入