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『永遠の夏休み』(ポプラ社)

12natsu →紀伊國屋書店で購入


「なぜフーコーなのか
 脈絡のない話
 東京物語から」

私の大学時代の専攻は有機材料工学と言って物理でも化学でもなく、今で言う interdisciplinary = 学際領域の走りでした。他専攻の授業を取る自由度もあ り、私も生物系の専攻に行って生物実験の単位を取ったりで、かと言えば、倫理学や日本文学の授業とかにはまったりで、クラブが忙しいのに結構飛び回っていました。その最たるものが、建築科の授業で、スチワート先生といって全 部英語の授業だったのですが「ル・コルビジエとモダニズム」「バウハウスの 線」「今なぜフーコーなのか(あっこれは倫理学だった)」とかレポートは散 々だったのですが結構専門外のハイパーな内容にはまり、スチワート先生に 「君どこから来てるの?」とか研究室にお邪魔して雑談したり、ホームパーテ ィに誘われたりで結構親しくさせてもらいました。

ル・コルビジエは、20世紀の近代建築の4大巨匠の一人と言われていますが、 その作品は日本では一つだけ見る事ができます。それが上野の西洋美術館で す。(最近「東京人」に特集がありました)実は美術館めぐりというのは、作品群を見るのもそうですが、その建築空間に身を置く、というのも気分で、何か人目につかないところでちょっと怪しげにゆっくり、みたいな感じで結構時間をつぶしてしまいます。原美術館の中庭とか、伊香保のアークのテラスとか、へたな喫茶店よりもよっぽどいい、何も話さなくても、本読んでるだけでも、遠くを見てるだけでも通じる、みたいな。
http://www.haramuseum.or.jp/

当時はバイトの関係で週に何日か上野毛に行っていましたが、時間調整に多摩美の裏の五島美術館の庭園をぶらぶらして、アンクルサムズのサンドイッチでブランチというお決まりパターンがありました。パチンコ屋に入り、バイトの時間がせまってきてから出続けるというあせりを感じるよりは、よっぽどエセセレブです。
アンクルサムズの無垢の木のいすにこしかけながら、「俺って、絵本とか子供向けの本書こうかな」とか言って、原稿書いていた時期があります。「小説とかって無理だから、子供向けの本、それも教訓的、説明的でなくて」とか生意気ふいて。和風の五島美術館の散策とは全く脈絡のない話です。
そんなこんなで、やなせたかしの「詩とメルヘン」に投稿したりで、かなり書き込んだ時期もありましたが、修論とかD論(博士論文)とかとどっちが真剣だったかって、もちろん後者です。
でも、その時、絶対使いたくないセンテンスは「大人になりたくない」でした。勿論そんなセンテンス、修論D論には書けません。

とは言え、それ以来、もう子供の本とかからはかなり離れていたのですが、ひょんなことから、この「永遠の夏休み」を読むことになりました。
それはうちの子が学校に提出する日記帳からでした。
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「永遠の夏休み」を図書室からかりてきたら「私にも読ませてよ」といったので、かしてあげました。母は読んでいる途中に泣いていました。「こんな素敵な本をよく見つけられたね、大ヒットだよ」といっていました。
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それから、このセンテンスがどうしても気になって、結局は買って、一気に読み切ると、久々にアンクルサムズで書いていた原稿のことを思い出しました。

実はこの「永遠の夏休み」には「大人になりたくない」という、モロそのままの章があって、「またかよ」とか思いながら読み進む内に、山を登る子供達、嵐のシーン、そして遭難した友達のリュックを見つけるシーン、と映画の絵コンテを見る感じで目頭が熱くなって、えっ?これって感動?とか、顔をあげて日常に戻るのに数秒を要する自分がいそうでした。一気に読み切るという、映画館と同じく日常から離れることが大切ですけど。

小学生を対象とした文学は教訓的、説明的なので、そんな部分を排除して表現できないか、とストラグルしたものでした。この「永遠の夏休み」も最後に説明的な内容が出てきます。また「大人になってもいいんだよ」という話も出て来ます。でももしかして、俺って若かったのかな、説明してあげていいんだ、と素直に受け入れられる。こりゃプロは違うな、というところです。

私の友人で、夜のニュース番組でビデオ編集しているやつとは、昔から、いつかは「映画つくろうぜ」と言っていた仲で、彼は医学部〜文学部を経て、映画監督の運転手をしながら、そっちの道に進み、私はというと、そういう意味では道を外れてきてしまいました。そいつは一時期邦画にはまって、私は小津の映画を見るまでは岩波ホールとかへんに洋画派だったので、地元の商店街の飲 み屋で「おい、コッポラぐらい観ろよ」とか言ったもんです。
でも何か、久々にこの「永遠の夏休み」を持って、また夏休みにでも「映画つくろうぜ」と会いに行こうかと思っています。
「お前、いつから邦画になったんだ?」とか言われそうですが。
そこには「東京物語から」とか無難に答える自分がいそうでした。

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