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プロの読み手による書評ブログ

『きょうも、いいネコに出会えた』岩合光昭(新潮社)

きょうも、いいネコに出会えた

→紀伊國屋書店で購入

BGM(Jeff BeckBeck Bogert Appice(1973))

「今朝は3:30に起きて
 まだ星がきれいな時間に家を出た
 月明かりのシルエットに黒猫が横切る
 幸運の兆しだ」

例えば朝の4:00、マンションの1階では新聞配達人が床に新聞の束を置き、フロア毎に分けている。駐車場のリフトのスイッチを押すと黒猫がダッと飛び出して目の前を横切る。月明かりに黒い影が延びて、私は幸運の印だと思っている。

例えば夜の0:30に寝ると、普通は3時間経った3:30頃に目が覚める。何やらやらなければならないことをある程度覚えていると、そこで起きて何かゴソゴソと仕事を片付け始める。最近のように、やらなければならないことが両手両足 では数え切れない程あって、多分200はないが100はあって、もう何が何だか分からなくなっていると、やったところで焼け石に水なので、また寝てしまって 5:00に起きることにする。それでも、その寝るには人知れず思い切りがいる。

帰宅前にジムで筋トレをしないと、Donna Leeを弾かなければとか思いながら2:00頃に寝汗をかきながら追われる夢で目が覚めて、もうろうと電波時計を確認する。レムとノンレムの90分周期はあながち嘘ではない。

なので私にとっては90分の倍数が睡眠の区切りになっていて、何て律儀な性格なんだ。

一方で5:00を過ぎてまで寝ていると、その日の仕事が間に合わない。そして、9:00までにあと■時間■分あって、電車の中では■分あると考えて、立っていようが座っていようが、やらない訳にはいかないからと時間を逆算し、立ちな がら原稿を書くので、Macをかかえる左手が腱鞘炎になって、それが土曜だったことに気がつくと、目を閉じてそんな馬鹿げたサガに自分であきれる。


国際問題になりかねないことで、人の間で意見を調整する。だから同じことを数分でも続けて考える暇がない。

■時■分にどこどこへ来てくれと急に呼ばれ、■分の電車に乗れば■時■分につき、どこどこでネクタイをして、どこどこでタイプして、その数分間かでプリントを作り、話をまとめ、審議官クラスの■■氏からの話によっては違う展開も想定して用意する。たとえ臨席の■■氏から間違った内容を言われても、 不条理な話が出ても、そこで正しい内容に訂正するようなことを言ってはいけない。それをうなずきながらあたかも漫然と受け入れる。そしてキリキリする頭の中をクールに演出する。時に■■にならなければいけない。

むしろ賛成の■■氏から逆に「じゃあ、そんなことならやめたら」と言われる方が怖い。その一瞬の言葉じりにとまどい、全く違う展開があって、その一瞬で全てが終わり、国際問題にもなりかねないこと。その予感とその直前に言葉をはさむ。そんなクリティカルが状況の連続、時間ギリギリの攻防、その人達の興奮具合にもより、密室のミーティングで、私の、そして日本の将来が決まる時がある。時に無駄に思える沈黙も必要で、それでも私は自分の行き先をその沈黙にゆだねる。

■■氏は■時■分の新幹線に乗るから、■時■分までには結論を言ってもらわなければならないが、そこは結論を急がず、そこは電波時計を見ながら、その出発までの最後の数分にかける。よし、とGOサインが出るかもしれない最後のギリギリの攻防に、■時■分は容赦なくせまる。書類に変更が入り、すぐにPCを立ち上げ、そうすると新しいPCにはプリンタドライバがなく、すぐに近くのPCにUSBでデータを転送して、■時■分までの数分間の秒針が気になるが、 OSが違うと書体が化けた。とにかく直筆のサインがなければ。


強烈なストレスの毎日に、自分のことは何も片付かず時間だけが過ぎて行く。

だから最近は、同じことを続けて考える時間がない。寝ていても移動中でも、正直には言えない尋常ではない状況に、このまま終る訳には行かない。後戻りは出来ない。


世の中の困った人達はみんなバカで意味がない

それはそうだけど

世の中みんな優しく感じて意味があるよりよっぽどいい

と彼は言う

それはそうだけど

と頭のいい彼女は仕方なく相づちを打つ

あっ、と彼はそこまで言いかけた自分に後悔する

彼女は純粋なので、そこまでは許してくれない

悪いことをした


しきりに手を洗いたくなるのは

精神的に不安定な証拠だと、やに客観的な自分がいやになる


強烈にクリティカルな毎日に、何がクリティカルかは家族にも誰にも絶対に言わない。それが私の主義。絶対に今何をやっているか言ってはいけない。要は生きるか死ぬかの瀬戸際の連続で、綱渡り状態で。思惑の異なる多くの人の間で如何に物事を進めるか、何も関係の無い人はサヨウナラ。そんなこと関係なしに車内でコミック雑誌を広げる人はサヨウナラ。明日も関係ない目つきの人はサヨウナラ。少なくとも私はいりません。

このストレスは何か自分が50年前の、全く価値観の違う、全く訳の分からない世界にいて、全く国際社会から遅れを取っている日本という異国に住んでいるかのような錯覚を起こす。実際それは錯覚ではなく、私は今現在50年前に住んでいる。何をどうしたら良いか、訳の分からない人達が世の中を動かし、新聞配達人は新聞の束をフロア毎に分けて、どうしようもない方向に進んでいて、 実際には、遅れている社会に何も出来ない自分がいけないと自分を責める。


私は時計を沢山並べて、それらの時計がそれぞれ微妙にずれた時間を示すのが好きで、その中でも電波時計が律儀に正しい時間を刻んでいるんだろうなとか思うと、その時計をどう評価して良いのか迷う自分がいる。要は堕落である。

それでも彼女の目線が伏せ目がちなのが気になる。

財布に入れるお札の向きが気になる。


come on tell me

you make this all go away

you make this all go away

I'm down to just one thing

and I'm starting to scare myself

you make this all go away

you make it all go away

I just want something

I just want something I can never have

I just want something I can never have


マジソンスクエアガーデンのスクリーンショット

ブッシュがパーティで踊り

猿が鳥を追う


will you bite the hand that feeds you ?

or will you stay down on your knees ?


本当はもういらない

少なくとも私はいりません

でも、もう後戻りは出来ない

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