『オ−ル・ザット・ジャズ ミュ−ジック・エディション』<br>ボブ・フォッシー【監督・脚本】 ロイ・シャイダー【主演】<br>(20世紀フォックスホームエンターテイメント)
BGM(Natural Born Killers/Soundtracks(1994))
「Do you think I could be a movie star ?
... No」
あのリフに誘われて、ほとんど毎晩All That Jazzを観ていた時がある。
1年ちょっと位だろうか。ほとんど毎晩酔いながら、ほとんど毎晩のめり込んだ。日常生活が"show time"で、舞台が作品が芸術が現実=事実という、それを肯定してもらえる力が欲しかった。この馬鹿げた素晴らしい人生の代償ではあるが、レーザーディスクの時代に4〜500回は観ただろうか。
"Do you think I could be ?
You know, a movie star."
"Well, that's...
It's a very freaky business, you know..."
"Do you think I could be a movie star ?"
"... No"
理想を現実とするか、身近な理想を現実とするか、それは人の勝手だが、身近な理想が必ずしも現実とは限らない。
スケジュールだけではない。起こる全ての物事の内容もまた想像を絶するものがあるが、忙しいとは心を亡くすことで、決して自慢出来るものではない。どう想像を絶するかは、最低限想像以上だが、体力的にも精神的にも決して健康的ではなく、普通にしている演技力に一番心血を注ぐ。
覚醒剤を飲み、Vivaldi Concerto In Gを聴きながらシャワーを浴び、目薬をさす。
"Show time, folks !"
日常生活で、現実=事実を言ってはいけない。
食事の時間はないし、移動中も細かい事を片付け、そんな中、この数ヶ月で現職をやめる話が少なくとも2回はあった。決断と180度のどんでん返しの繰り返し、街行く人は、どうしてこんなに余裕なんだろう。
"To be on the wire is life.
The rest is waiting."
"That's very theatrical, Joe."
全てのカットが脳裏を横切るが、主人公ギデオンが死に直面する時、ベットから抜け出し、水たまりの機械室をフラフラ踊り、病院を歩き回るシーンがある。
そして111号室で苦しむ老女を助ける。
"I think you're the most beautiful thing in the world.
I love you."
そして一人の作業員と座りながら歌を合わせる。
"Five, six, seven, eight...
Pack up your troubles in your old kit bag...
and smile, smile, smile..."
"Juicy..."
いつもこのシーンで泣く。
読み合わせ中に耳が遠のき、手首に違和感があって、後ろ手に鉛筆を折るシーンがある。一先ずこれは突発性難聴で、すぐに医者に行った方が良い。ただ入院設備のない町医者の耳鼻咽喉科の方が良くて、でないと、すぐに入院させられる。
例えば、私の今の印象ははっきりとは残っていないだろう。
あなたには輪郭のはっきりした、それもやや意味のない風景しか頭に残らないはずで、今日のこの夕焼けに映える、少し上階から見下ろす下町の風景は、私が死ぬ時にでも覚えているだろうけれど、ただその時、私がどういう気持ちでいたか、あなたは覚えていないだろうし、ましてや察しもつかないだろう。
この暮れる風景はあなたの明日へとつながるかに見え、私の想いは今日にとどまる。それはそれで良しとし、私はこれで分っていて、分らないことも容認し、分らない人をも容認し、そして人は堕ちる。充分堕ちる。ただ、意味のない明日は、今の内は意味があっても、その会話にゆだねられる時だけ意味があっても、不変ではない。人は全てを運命に託し、分らないまま、その2〜30年前のまま、それが良いと思い、それに託す。それで良い。
それで良い。
全てが2〜30年前の世界は、2〜30年経ったらどうなるかが見えている。
ただ日常生活で、見えていることを言ってはいけない。
ただ日常生活で、現実=事実を言ってはいけない。
別のあなたは空の向こうで、私の2〜30年先を行っているのだろう。
だから、別のあなたにとって、私は滑稽な2〜30年前に見えるに違いない。
分らない人よ、さようなら。
分らないまま、私も充分堕ちて行く。
"Something's gone wrong.
All wrong."
(ジョー・ギデオン)
"Anger, denial, bargaining, depression and acceptance."
(キューブラ・ロス)