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『リリィ、はちみつ色の夏』<br> Sue Monk Kidd(著)小川高義(訳)(世界文化社)

リリィ、はちみつ色の夏

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「Lily Dakota Fanning
 こんな女の子が同じクラスにいたらどうしよう」
(BGM: If I Ain't Got You (Alicia Keys))

映画で、思わぬ所で涙が出てしまう経験があるだろう。
戦場のメリークリスマス」で、たけしの顔がスクリーン一杯になり、トムコンティとデビットボウイに対して、笑顔で「ファーザークリスマス」と言うシーンでは、ボロボロと泣いてしまったが、実は当時の映画館では笑いが起こり、私はその不甲斐なさに情けなく思ったことを覚えている。あのハラ軍曹を創造したのはもちろん大島渚監督だが、カンヌだったかから帰国した際、受賞を逃して惜しかったですねという質問に「早すぎて時代に理解されなかった」というようなコメントを言ったことがいたく印象に残っている(とは昔も書いた)。(今村昌平監督の「楢山節考」も素晴しい作品ではあるが、評価の観点が違うので比較することは難しい(とも昔に書いた))実はたけしも坂本龍一も演技は素人そのままで、それでも大島渚というカメラを通すと、それが保険会社のCMのように、素人が演出する普通の日常生活のシーンが涙をさそう。

そこで「リリィ」だが、これはまた全く逆の観点から、プロが演出する普通の日常生活のシーンが涙をさそう。そもそも私は最近、大型スペクタクル、アクションスリル満点(も結局は好きだが)には食傷気味で、見る事は見るけれど、その見方が「ここまで引っ張るんだ」「じらしてそろそろカーアクション」みたいなハリウッドのテーゼ・アンチテーゼをどう周到し、どう逸脱するかのような見方をしてしまい、そういう意味ではストーリーにのめり込むことはほとんどない。

そこで「リリィ」だが、もともとDakota Fanningは天才「子役」と言われてきたが、私にとってはJodie Fosterと同じ匂いがして、下世話な言い方だが「私好み」の「女優」である。冒頭のシーンでは、また得意のサスペンス役かと思いきや、その後徐々に14歳という危険をはらんだエイジを存分に発揮する。

勿論、本作品は有名どころも渋いどころも豪華キャストで、助演女優賞レベルに全員が名前を連ねているということからして、その質の高さが伺える。特にお勧めはSophie Okonedoだが、それも説明し始めると切りがないからやめておこう。

そこで「リリィ」だが、久々に思わぬ所で涙が出てしまうシーンばかりで、笑顔と笑いに込められた人生の苦悩とでも言うのか、思わずストーリーにのめり込んでは、その次のシーンが思った通りになる快感に自己満足する。

「読んでから見るか、見てから読むか」とは角川映画人間の証明」のコピーだが、まさに見てから読む気にさせた映画は久々で、それもベストセラーなので、今さらというお恥ずかしい話ではある。

自分の琴線に触れるのか、もっと深い所で人間としての本質に触れるのか、お涙ちょうだいシーンとは違うところで感動する快感は、映画の醍醐味でもある。

Dakota Fanningには間違って欲しくないという親心のような、いやいや、何かこんな女の子が同じクラスにいたらどうしよう、のような気持ちにさせる。

繊細な文学を読む時間

どんな編集をしたかは分からない

しなやかでしとやかでしたたかで

そんな出会いに感謝する

大切なのは

愛を贈ること

Lily Dakota Fanning

www.lily-hachimitsu.jp


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