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新しいアナキズムの系譜学 高祖岩三郎(河出書房新社)

新しいアナキズムの系譜学

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NYの活動家/批評家が、現在、世界で展開されているグローバル・ジャスティス・ムーブメントと呼ばれるラディカルな反資本主義、反権威主義運動を「新しいアナキズム」と名辞し、実践的、理論的にそれらをまとめあげた渾身の一冊である。冒頭で触れられているように、「新しいアナキズム」とは、「古い」アナキズムに対して「新しい」わけでも、ましてその新しさが新しさにおいて称揚されているわけでもない。そもそもアナキズムは、古いも新しいもなく、資本主義はおろか国家の登場以前に、人々の営みのなかでこれまで存在し、これからも存在し続けていくからだ。よって、ここで含意されたのは、名付けることによって、想像的な運動の地図を明確に描き出すことであり、普遍的であることによって常に新しい運動の未来だと言えるだろう。

本書は、自律、自主連合、自己組織化、相互扶助、直接民主主義といった非常に単純で明快な基本原理からなる「新しいアナキズム」が、メキシコのサパティスタ解放軍の武装蜂起、シアトル、ジェノバ以降の対抗的民衆運動の底流に流れていることを様々な事例から歴史を遡りながら検証していく。それとともに、プルードンバクーニン、ブランキ、グレーバーはもちろん、アナキスト地理学者エリゼ・ルクリュ、戦前のアナキスト作家石川三四郎マルティニークの詩人、文学者エドゥアール・グリッサン、哲学者ドゥルーズ=ガタリなどを導入し、その構成的な過程を系譜学として練り上げていく。そして、そうした運動を可能とするための資本主義の包摂されない、包摂しえない「共通なるもの=コモン」の到来/開示が目指され、その実践として南米の巨大な自治区から都市でのスクワットハウス、歴史的にはパリコミューン、あるいは「仕事=労働」とは見なされない家庭での再生産労働、学校や様々な集まりのなかで行われる様々な協業などが、そして究極的な形態として大地、海、大気、身体、地球があげられ、地球=世界という根源的な存在が、反資本主義であると定義していくのだ。

その類を見ない尺度で世界を捉えるダイナミックで刺激的な理論=運動は、資本主義にすべてが包摂されてしまっていると諦め、グローバル・ジャスティス・ムーブメントがほとんど展開されていない日本において、反資本主義/反ー権力の「地球的組織化」を促す契機となるに違いない。