書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『「芸術」の予言!! 60年代ラディカル・カルチュアの軌跡』(フィルムアート社)

「芸術」の予言!! 60年代ラディカル・カルチュアの軌跡

→紀伊國屋書店で購入

 『「芸術」の予言!! 60年代ラディカル・カルチュアの軌跡』は、1968年10月から1972年12月に刊行された全13号の『季刊フィルム』と1973年7月から1974年6月に隔月刊となった全9号の『芸術倶楽部』に掲載されたテクストの選集の第一弾である。
 『季刊フィルム』は、1968年に映画、芸術の批評誌として創刊された。国内外の実験映画、アンダーグラウンド映画のみならず、音楽、演劇、美術、デザインといったあらゆる表現を積極的に紹介し、前衛芸術の拠点となっていた草月アートセンターから、雑誌刊行のために、フィルムアート社が立ち上げられた。ちなみに、草月アートセンターは、草月流の二代目で、同時に映画『砂の女』(64)などでも知られる勅使河原宏によって、草月会館が完成した直後の1958年に設立されている。


 『季刊フィルム』の編集は、同人による編集委員体制が取られ、勅使河原を中心に、映像作家の松本俊夫、飯村隆彦、表紙のデザインを手掛けた粟津潔、音楽家武満徹、映画評論家の山田宏一、美術評論家の中原祐介ら、多様なジャンルで横断的に活躍する芸術家、批評家が参加した。『芸術倶楽部』に引き継がれる過程で、石崎浩一郎今野勉寺山修司が入れ替わりで参加している。一号は、『中国女』、『ウイークエンド』(67)の自主配給と合わせたジャン=リュック・ゴダール特集で、つづいてピエロ・パオロ・パゾリーニグラウベル・ローシャ、アンディ・ウォーホールジョナス・メカスなど、同時代のニューウェーブアンダーグラウンドの世界的潮流を積極的に紹介するほか、溝口健二ルイス・ブニュエル、ジガ・ヴェルトフの再評価、そして日本映画の未来、映画メディアの理論的、哲学的考察について論じられた。それらの内容は、現在においても刺激的であり、また映画の宣言特集や最終号での「現代映画状況辞典」などの映画史、映画学的アプローチも極めて先駆的である。おそらく、その後に刊行されている映画雑誌において、この水準に匹敵するものはほとんど存在しないだろう。


 『季刊フィルム』は、映画雑誌でありながら、映画という枠を越え、1960〜70年代前半という激動期において、一つの芸術的、理論的極を形成したのである。そうした横断的な実践と理論の可能性を再提起することが、この選集が編まれたことの意図であり、現在の批評や理論、実践の在り方に対する強い挑発となるに違いない。しかしその一方で、同時代において、優れた映画誌や思想誌が他にも数多く存在していることも事実であり、そうした相互の影響関係や論争のなかで、様々な理論や実践は生み出されて行ったのである。そうした意味では、こうしたテクストが、古本屋や図書館を探すのではなく、新しい選集として手軽に入手できるようになったことは非常に喜ばしい。また、草月アートセンターの軌跡については、『輝け60年代ー草月アートセンターの全記録』(「草月アートセンターの記録」刊行委員会)に詳しいので、そちらも参照したい。 

 

→紀伊國屋書店で購入