『シナリオ別冊 作家を育てた日活ロマンポルノーシナリオ選集』(シナリオ作家協会)
『シナリオ別冊』の「作家を育てた日活ロマンポルノーシナリオ選集」は、日活ロマンポルノの優れたシナリオ10本が、脚本家、関係者の対談、解説などによって紹介されている。神代辰巳『一条さゆり 濡れた欲情』(71、監督・神代辰巳)、中野顕彰『牝猫たちの夜』(72、監督・田中登)いどあきお『㊙色情めす市場』(74、監督・田中登)、荒井晴彦『新宿乱れ街 いくまで待って』(77、監督・曽根中生)、桂千穂『ズームアップ 暴行現場』(79、監督・小原宏裕)などの代表的なシナリオが取り上げられている。
日活ロマンポルノは、1960年代に入り、テレビメディアの普及などによって、日本映画の観客動員数が激減していくなかで、大映の倒産についで経営危機に陥った日活が、1971年に自らの生き残りを賭け、大きな路線転換を計った結果として誕生したジャンルであった。60年代前半にピンク映画が登場し、60年代半ばには大手では東映のエログロ路線なども始まるが、大手による本格的な成人映画の制作はこれが始めてとなった。それまでの日活映画を支えて来たスターや作家、職人たちの多くは去り、若い制作者、スタッフらがロマンポルノという新しい日活映画を担っていくこととなった。そうした逆境のなかで、数々の新しい才能が誕生し、日本映画史的な傑作が送り出されたのである。
本書は、そうした日活ロマンポルノの軌跡に、シナリオ、脚本家の側から焦点をあてている。これまでも日活ロマンポルノをめぐる書籍は少なくないものの、作家主義による監督・作品分析、あるいは女優紹介が主であるため、このようにシナリオを中心にした構成は珍しいと言えよう。数年前からロマンポルノのDVD化が劇的に進んでいる現在においてはーただ傑作、秀作と言われながらソフト化されていないものも少ないがー、シナリオと映画化された内容との比較検証も容易となったため、また本書の対談やエッセイで強調されているシナリオを優先した制作経緯などからも明らかなように、今後の日活ロマンポルノ史においては、作家主義にとどまらない多様なアプローチが必要となってくるだろう。
そして、混沌とした映画状況のなかで、奇跡的に生み出された日活ロマンポルノという映画群を検証することは、日活という日本で最初に設立された映画企業の栄華と衰退の歴史のみならず、日本映画史そのもののを考えることと同義であるに違いない。一方で、ポスト68年としての70年代という時代において、ロマンポルノ裁判という文字通り政治的事件=出来事のみならず、日活ロマンポルノというジャンルが果たした政治的、社会的、運動的役割についての分析も待たれるところである。
また、巻末の日活以外の制作作品を含めた「日活ロマンポルノ全作品リスト」は、資料的に重要である。プリマ企画など他社の制作を含めた日活ロマンポルノの全体像は、更に次の段階の映画史的課題となるだろう。