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『モーツァルト 演奏法と解釈』(音楽之友社)

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モーツァルトのピアノ作品をモーツァルトらしく弾けるようになるための指南書だ。読んでおもしろい、という本ではないが、奥が深い。難解な学術書とは違って実践のためのアドヴァイスがたくさん掲載されている。ここから得られる知識は他ジャンルや作曲家の作品にも応用できる。いわば実用書なのだ。日本語の初版が出版されたのは1963年。以来40年以上も版を重ねた、音楽専門書としてはまれにみるロングセラーだったが、この貴重な書籍もとうとう絶版となった。このコーナーで一般向けの書籍として紹介するにはどうか、と迷ったが、まだ書店や楽譜ショップには在庫が残っているところもあるようなので《購入ラストチャンス!》の緊急アピールとしてご理解願いたい。

著者バドゥーラ=スコダ夫妻は私の恩師である。ご主人パウルは「ウィーンの三羽がらす」としてならした世界的なピアニストだ。モーツァルトはお手の物。もうすぐ80歳になるが健在で、演奏活動もあいかわらず活発だ。しかし「第二次世界大戦からの復興期に彗星のごとくあらわれたピアノ界のスーパースター」だったため、日本ではオールドファンは多いものの、現代の聴衆の間での知名度が今ひとつなのが口惜しい。生粋のピアニストとしてのノウハウに音楽学者エファ夫人の学術検証をミックスしてまとめられたこの本は、正統派のモーツァルトを演奏したいと思うピアニストにとっては欠かすことのできない参考書だし、これからもその価値は変わらないだろう。

絶版にはなってしまったものの、モーツァルト生誕250年にあたる2006年には英語の改訂版が上梓される。数年後には改訂版の邦訳が入手できるのでは、と淡い期待を抱いているのだが、果たして??

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