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『ピアノ教室パワーアップ大作戦』(ヤマハムックシリーズ41)<br>『生徒を伸ばす! ピアノレッスン大研究 』(ヤマハムックシリーズ44)

ピアノ教室パワーアップ大作戦
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生徒を伸ばす! ピアノレッスン大研究
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「自分のピアノ教室をレベルアップしたい先生へ」

子供のお稽古事のひとつとして、ピアノのレッスンは常に人気が高い。聴覚の発達を意識した早期教育として、保育園の年頃からレッスンを開始するのも決して珍しいことではない。ピアノ教室通いは中学生以降、受験勉強や部活の忙しさが加わるなどして挫折し勝ちだが、音楽大学をめざすなど、専門のコースに進む場合もあるだろう。また、カラオケで熱唱するのに飽きたらず、「何か楽器が弾けたら」と夢みる大人も多い。そんな時、ピアノは選択肢として必ず頭に浮かぶ楽器のひとつだろう。

このようにさまざまな目的とレベルのレッスン生を指導しなければならないのが、街のピアノの先生だ。ふつうは音大のピアノ科の卒業生が自宅で教室を開いたり、あるいは楽器店が経営するピアノ教室の講師になって経験を積んでいく。この段になって初めて「先生としての苦労」を身にしみて感じ、「ああ、学生の時もっとまじめに勉強しておくのだった〜」と悔やんでも時すでに遅し。あとは試行錯誤を通じて自助努力するしかない。ほとんどの場合は自分の来た道をふり返り、今まで師事してきた先生の真似をしていくことになる。しかし、今まで師事した先生の顔を思い出してみれば、ピアノレッスンに関しては数人、あるいはたったひとり、という場合もあろう。ケーススタディをしようにも、サンプル数が少なすぎるのだ。かといって、どこかの教室を見学させてもらうのも簡単ではない。

昭和の頃は子供も多かったし、ピアノ教室は、開けば何とかなったものである。たとえピアノ科を出ていなくても、音大卒でさえあれば自分の専門が歌であろうとフルートであろうとピアノの生徒が集まってきた、という嘘のような時代もあった。サッカーのコーチにゴルフを教わりに行くようなものだ。しかし平成となった今、少子化の影響で若い生徒の数は減っている。他方、趣味で始める大人の生徒は増えているが、目的意識がはっきりした生徒たちの要求レベルは高く、それにきっちり対応するには、それなりの勉強と経験が必要になってくる。

「どんなレッスンをしたらいいのだろう」「他の先生たちはどのように教えているのかな」「教室の経営に必要なものは何か」「発表会を企画する時の注意点は?」「保護者への対応はどうするの?」「教材の著作権?」「確定申告??」といった疑問が浮かんだときに、まず読んでみてはどうだろう。実は全日本ピアノ指導者協会(通称ピティナ)という団体から2年ほど前に『ピアノ指導者のための教室運営ガイド』というユニークなガイドブックが発行されていた。そろそろ完売のようで入手困難になりつつあるが、これに代わるガイドとして紹介したい。マニュアルとしても使えるが、それよりもまずは目を通してみてたくさんのキーワードに触れ、「そんな方法もあったのか」と前向きに成長していくためのカンフル剤となれば、と思う。この本で紹介されているトップレベルの先生たちもみな「第一歩」から始めたのだ。恐れるものは何もない。

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