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『情報のみかた』山田奨治(弘文堂)

情報のみかた →紀伊國屋書店で購入

学科名に「情報」という言葉を持つ、美大では数少ない学科にいると、あらぬ誤解を受けることが少なくありません。ちょっと前まで、受験生からは「パソコンで絵を描く学科」、「ゲームをデザインする学科」と思われていたり……。
おそらくこれは、彼らの頭の中で「情報」という言葉が「コンピュータ」と非常に強く関係づけられているからでしょう。もっとも、そのコンピュータにしても「どういうことになっているか分からないけど、とりあえず何でもできる道具」くらいの存在なのではないかと……おっと失礼。

さて、看板に掲げた「情報」という茫洋としたものについてどう取り扱えば良いか、僕のような人間にとっては大問題なんですが、本屋さんで見かけたこの本の帯には「大人にもわかる」「小学生から読める大学用テキスト」と書いてあります。さらに曰く「コンピュータの原理や使い方を知ることだけが、情報についての勉強ではない」……となると、読まねばなるまい、ということで買ってみました。

本を開いてみると、第一章が「ゆうれいの顔はなぜこわいのか」ですから、確かに「情報」の本としては異色です。コンピュータの方を向いて「情報」している人にしてみれば、これはどうなってるんだろう、と思わないわけにはいかないでしょう。しかし読み進むうちに、書かれていることは「情報」をもっと人間的なレベルからとらえようとするときに極めて重要なことばかりだということが分かってきます。

まずは「ゆうれいの顔のこわさ」を明らかにするために、いろんな幽霊の表情を並べ分析するところから始まるわけですが、これは当たり前の話。面白いのは、その際「比べるために何を取り上げるべきか」を決める直感の役割について、しっかり解説しているところです。
ついで、多量なデータのばらつきを正規分布で見る方法、得られた大量のデータやつながりを図化し、分類することで「広がり」や「深さ」という隠されていた関係を明らかにしていく方法などが具体的な事例を通して説明されます。
端折って言えば、情報は伝えようとするところにつくり出されます。多くのモノ・コトを体験したとき、私たちはそれらをバラバラにとらえるのではなく、あるまとまりとして理解しようとします。このまとまりをなんとかして伝えたいとなると、その際、どのようにモノ・コトを区分し、状況から「まとめ」をひねり出し、分かりやすい記号の並びとして表現するかということが問題になります。こうした非常に基本的な問題意識を下敷きにしながら、「情報」への基本的なアプローチが記されている、というわけです。

それにしても、「なぜこれが『情報』につながっているんだろう?」と読者を引きつけ、一見関係なさそうなモノと私たちの間に見いだされるつながりに眼を誘導しながら「情報」がどこに、どんなカタチで潜んでいるのか、私たちの周りに氾濫する「情報」とのつきあい方を明らかにしていく……本書との出会い、「腰巻き」のコピーから本文の構成まで、読者をぐんぐんひっぱって行く構成も見事です。
ふだんの生活の中でどのように「情報」を見いだし、接していったら良いのかについて、いろんなヒントが得られる、目配りのきいた本としておすすめです。

→紀伊國屋書店で購入