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マキノノゾミ 「思い出。少々無法な。」

学生の頃、京都から窮屈な夜行バスに乗って、何度も紀伊国屋ホールに来ました。つかこうへい事務所の公演を、朝一番から当日券に並んで観るためです。もう時効だと思うので書きますが、観るだけでなく、客席でこっそりとカセットテープを回したりもしました。当時はまだ舞台のDVDやビデオテープなどなかったとはいえ、無法者の所業です。

あれは82年の、最後の『蒲田行進曲』二ヶ月ロングラン公演の時でした。当日券の席が、好運なことに、張り出し舞台の下手の最前列でした。かぶりつきです。手を伸ばせば舞台に手が届きそうです。そこで、わたしたちは(あろうことか!)、舞台の上にレコーダーを置きました。もはや乱暴者の所業です。そこは、フットライトの陰になっている場所でしたが、同時に、根岸季衣さんがラストシーンで使う刀が仕込まれていた場所でもありました。クライマックスの場面で刀を取りにしゃがまれた時に、きっとそのレコーダーも根岸さんの目に入ったに違いありません。あの瞬間の「やべ!」という思いは、今でもはっきり覚えています。

その時のテープを、わたしたちは呆れるほど何度も繰り返して聴きました。そのおかげで、今こうして紀伊国屋ホールの舞台に立っているのだとも思うのです。張り出し舞台の下手の端に立つと、今でもちょっと感慨があります。


マキノノゾミ

マキノノゾミ

1959年、静岡県生まれ。劇団M.O.P.主宰。外部の舞台でも作・演出を手がけるなど幅広く活動中。2002年度後期 NHK連続テレビ小説まんてん」脚本を担当。

2008年11月には紀伊國屋ホールにてマキノノゾミ三部作を上演する。

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