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『世界は村上春樹をどう読むか』 国際交流基金:企画/柴田元幸・沼野充義・藤井省三・四方田犬彦:編 (文藝春秋)

世界は村上春樹をどう読むか

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 国際交流基金は2006年3月に、世界16ヶ国から村上春樹の翻訳者19名を招いて、「村上春樹をめぐる冒険―世界は村上文学をどう読むか」というシンポジュウムとワークショップをおこなったが、本書はその記録である。

 シンポジュウムというと難しそうだが、村上春樹という神輿をかついでワッショイワッショイやっているお祭りである。神輿の担ぎ手が国際的であり、しかも女性が多いところが村上春樹的だ。村上春樹本人が出てきていないという点もすこぶる村上春樹的である。

 参加者はヨーロッパが多いが、本の売行は東アジアが飛びぬけて多いようだ。人口が多いこともあるが、1980年代から紹介が進んでいることも大きいだろう。最大の市場である中国語圏からは中国、台湾、香港にくわえて、マレーシアの華人と四人が来日している。

 村上春樹が世界的なブームになっていると聞くと、最初から売れていたような印象を受けるが、多くの国ではそうではなく、日本の小説にしては売れている程度の時期がしばらくあり、何らかの政治経済的事件の後、ブームに火がつくというパターンをたどるようだ。契機となる事件とは、たとえば香港では天安門事件であり、ロシアでは1990年代半ばの経済危機だ。村上自身、70年代学園紛争の挫折組だが、外国の若者も挫折感、虚脱感をきっかけに村上の本を手にとるというわけだ。

 村上の読者の多くは都市の若者だが、欧米では村上と同世代のベビーブーマーの読者も多いという。日本の団塊世代同様、彼らもまた1970年前後に理想主義の挫折を経験しているかららしい。

 翻訳書の表紙の比較や「スパナ」と「夜のくもざる」を教材にした翻訳ワークショップなど、おもしろいプログラムが目白押しだが、読みごたえという点では「グローバリゼーションのなかで」という討議が抜きんでている。

 村上春樹が従来の日本作家の枠を越えて世界の読者に読まれているのは、アメリカナイズされた都市文化という共通要素によるところが大きい。村上の成功はアメリカ中心のグローバリズムの波に乗った結果という面があるのだ。では、日本の作家というアイデンティティはどうなるのか。討議は問題提起に終始しているが、これは今後、大きな問題としてクローズアップされていくだろう。

 本書を離れた勝手な感想だが、政治的挫折感をきっかけにした第一段階の受容が一段落した後で、グローバリズムとローカリティの矛盾がさらに多くの読者を村上春樹に引きつけていくのではないかと思う。

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