書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『高橋留美子劇場〈3〉赤い花束』 高橋留美子 (小学館)

高橋留美子劇場〈3〉赤い花束

→紀伊國屋書店で購入

 『高橋留美子劇場』の第三集で2000年から2005年にかけた発表された6編を収める。

「日帰りの夢」

 人生に疲れたオヤジが初恋の人に会えるかもしれないと胸をときめかせて同窓会に出席する話である。幻滅するだろうと最初から逃げ腰なのに、それでも出てしまういじらしさが泣かせる。「白い本」なんていうのも世代限定ネタだろう。

「おやじグラフィティ」

 苦労して建てたマイホームの塀がしつこく落書きされる。犯人はわかっている。強圧的な母親に甘やかされた近所の不良だ。同じ被害にあっている隣人とともにねじこみにいくが、向こうの母親に追い返されてしまう。

 というエピソードを発端に自分の息子の問題を考えるようになるという話だ。迷惑なバカ母子と同じ問題を自分の家もかかえていると気がつくという結末で、大人の鑑賞に堪える一編である。

「義理のバカンス」

 嫁が姑の温泉旅行につきあわされることになる。ただでさえ気を遣うのに、山奥の秘湯から歩いて帰る破目になる。最後の最後で救ってくれたのがよかった。

「ヘルプ」

 父親が倒れたために実家にもどって介護することになった一家の物語である。、介護疲れのためか妻が事故で入院してしまい、主人公が父親の面倒を見なければならなくなる。ありがちな話であるが、イヤガラセとしか思えなかった父親の行動の意味を理解するラストがホロリとさせる。

「赤い花束」

 NHK版『高橋留美子劇場』第一夜の中心になったエピソードで、主人公のオヤジはは小日向文世が演じていた。この人は情けないオヤジをやらせると上手いが、まさにはまり役。心の離れてしまった妻は原田美枝子で、年齢相応の美しさに息を呑んだ。こういう美しさを見ると、年甲斐もなく若さを追求する風潮は軽薄だとつくづく思う。

 原作も素晴らしい。読むべし。

「パーマネント・ラブ」

 単身赴任したオヤジの勘違い恋愛物である。恋の相手は子持ちのバツイチで、女子高生とちがってそれなりにリアリティがあるが、結末は予想通り。

→紀伊國屋書店で購入