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『運命の鳥 高橋留美子傑作集』 高橋留美子 (小学館)

運命の鳥 高橋留美子傑作集

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 『高橋留美子劇場』の第四集にあたる本で2006年から2011年にかけて発表された6編が収められているが、第一集~第三集のような普及版ではなく、まだオリジナル版が流通していている。版型は一回り大きいA5版で、表紙はエンボス加工のしてあるつや消しの紙だ。「ポジティブ・クッキング」、「運命の鳥」、「隣家の悩み」の三編は冒頭部分がカラー印刷である。値段は高いが、それだけの造本になっている。

「ポジティブ・クッキング」

 寝たきりの母親が亡くなって一年、ずっと介護をしていた妻が猛然と料理の勉強をはじめ、料理で自己実現を目指しはじめる。生きがいを見つけた妻にオヤジが自分は棄てられるのではないかとおびえ出すのがリアルだ。

「年甲斐もなく」

 一人暮らしの老いた父親が若い女とつきあいはじめ、再婚を口にしはじめる。物を貢ぐという形でしかつながれない老人の悲哀をさらりと描いているが、よくよく考えると残酷な話である。

「運命の鳥」

 心境漫画的な作品の多い本集で唯一ファンタジー色のある一編である。NHK版『高橋留美子劇場』では「君がいるだけで」とともに第二夜の中心的なエピソードになっていた。

 不幸を予兆する鳥が見えてしまう喫茶店主の話で、運命に臆病になり傍観者的な人生を送っている。NHK版では「君がいるだけで」の強気のオヤジとからませて話をふくらませていたが、原作は受け身一方なので話が広がらない。原作よりNHK版の方が面白かった。

「しあわせリスト」

 町内でボヤ騒ぎが頻発し、犯人探しがはじまる。怪しい人物はいたが……という話。二つの不幸な家族が出てくるが、主人公は傍観者にとどまっているので掘り下げようがない。不完全燃焼である。

「隣家の悩み」

 社宅に越してきて早々妻が妊娠で実家に帰り、一人暮らしをすることになった主人公が怪文書騒動に巻きこまれる。冴えない課長に不相応な美人妻という設定は面白いが、主人公が課長と共通点を持っていないので掘り下げ不足で終わっている。

「事件の現場」

 夫が海外赴任中の姉が事故に遭い、ギプスがとれるまで実家で世話をすることになる。嫁姑関係も良好でせっかくうまくいっていた家だったが、小姑がはいってきたことでぎくしゃくがはじまる。善意の行き違いだが、あまり説得力がない。

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