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プロの読み手による書評ブログ

『写真的思考』飯沢耕太郎(河出書房新社)

写真的思考

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河出ブックス創刊第2弾、12月初旬刊行の2点をご紹介しています。


続きましては、飯沢耕太郎さんの『写真的思考』です。

飯沢さんは、写真評論家。幕末・明治・モダニズムから現代まで、日本の写真評論を牽引する第一人者です。写真賞の審査員も数多く務められています。

私たちの心を惹きつける美しいイメージには何が潜んでいるのでしょうか。今回の本は、古今東西のユニークな写真を読み解きながら、写真における神話的想像力の働きに肉迫し、「見る=考える」ことの醍醐味について具体的に考察した本格的写真論です。

飯沢さんから読者のみなさんへのメッセージです。

「「写真評論家」という肩書きで仕事をはじめてもう25年になります。その間、「写真とは何か」ということについて考え続けてきたのですが、ようやくある程度まとまった結論が見えてきました。『写真的思考』では、特に書き下ろしの二つの章「写真と神話的想像力」と「死者と写真」でそのあたりをじっくりと論じています。このところ、どちらかというと啓蒙的な歴史書や写真家の紹介の本が多かったので、本格的な写真論としてはひさびさの仕事です。写真表現の魅力と可能性を、僕なりのやり方で伝えることができたのではないかと思っています。」

目次(章タイトル)は以下のとおりです。

序 写真と神話的想像力

1 切断と反覆

2〈写真ショック〉のゆくえ

3 モノに憑かれた写真家たち

4 イポリット・バヤールの呪い

5 コスチュームとしてのヌード

6 寄り添いの作法

7 もう一つの風景写真──柴田敏雄

8 沖縄の地霊(ゲニウス・ロキ

9 写真と死者

あとがき

*****

飯沢耕太郎の「この〈選書〉がすごい!」

①金丸重嶺『写真芸術』(朝日選書、1979年)

学生時代の恩師、日本の広告写真の草分けでもあった金丸重嶺の写真論を、歿後に集成した本。当時はこんなことは常識だと思っていたのだが、今になって腑に落ちることが多い。写真という表現手段の特質をわかりやすく解説している本はあまりないので、その意味でも貴重。

港千尋『記憶――「創造」と「想起」の力』(講談社選書メチエ、1996年)

写真家でもある港千尋にとって、「記憶」とは何かを考えることは重要な意味を持っていたに違いない。本書は特に「想起」をダイナミックな生成・構築のシステムとしてとらえることで、新たな「記憶」観を提示している。特に「立体コピーマシン」というべき彫刻家のアロンゾ・クレモンズのような、驚くべき記憶を持つアーティストのエピソードが興味深かった。

中沢新一カイエ・ソバージュ』シリーズ(講談社選書メチエ、2002~2004年)

「人類最古の哲学」「熊から王へ」「愛と経済のロゴス」「神の発明」「対称性人類学」

の全5冊。人類学的な知を人類の文化・芸術の生成と展開の過程に重ねあわせようとする野心的な試みで、読んでいて触発されるところが多かった。個人的な興味としては、シベリアのシャーマニズムにおける幻覚性きのこ(ベニテングタケ)の役割について、もう少し突っ込んで論じてほしかったのだが。


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