書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『展覧会カタログ案内』中嶋大介(ブルース・インターアクションズ)

展覧会カタログ案内

→紀伊國屋書店で購入

 よほどのことがないかぎり、展覧会カタログを買うということをしなくなった。いちばん最近買ったのは『時の宙づり 生・写真・死』(IZU PHOTO MUSEUM、2008)だが、これは書店売りされていたものたったので、写真集を買う感覚で手に取ったのだった。奥付から展覧会がまだ開催中と知り、あわてて観にいったのだ。おなじことを、本書の著者もしていた。美術館でされるのが主だったカタログの編集が、出版社でされることが増えたため、書店でこれを見つけて展覧会の存在を知る、というパターンが増えてきたのだという。


 本書には、百点あまりの展覧会カタログが紹介されている。とくに、展覧会のカタログを美術史的、あるいは書誌学的に研究するというのではなく、こんなカタログがありますよ、とブックデザインの視点からこれをみせて紹介するというもの。後半にはカタログに関わる各界の方々(印刷博物館の寺本美奈子氏、グリフの柳本浩市氏、森美術館キュレーターの片岡真美氏、アートディレクターの服部一成氏、編集者の都築響一氏に)インタビューすることで、カタログの成り立ちについてをカバーしている。

 取り上げられているカタログは、二〇〇〇年代のものがおおいが、古くは一九五〇から六〇年代のものも。美術・イラストレーション・グラフィックデザイン・プロダクトデザイン・写真・建築・カルチャーなどジャンル別に紹介されてゆく。タイトルのとおり、あくまで展覧会カタログの世界へのナビゲーションとして活用するべきか。気になるのは、それぞれのカタログにつけられたキャプションに統一感がないこと。カタログの本なのだから、カタログとしてどうなのか、というところに焦点を定めるか、もしくは、デザイナーである著者の感覚で選書されているのだから、もうすこし個人的なコメントがあってもいいのかなあ、という気がした。

 かつては、展覧会カタログというと、やたらと重くて、判型がまちまちなので収納に不便で、買ってきたはいいもののついぞ開かれることのないしろものだった。けれども、私の手元にあるカタログは、どれも観てよかったと思えた、思い出深い展覧会のものばかりである。展覧会そのものに意味があると思えたものなら、たとえ本としての魅力がそれほどでなくても、やはり大切な一冊となりうるのだ。展覧会ありきの出版物なので、魅力的なカタログを作るというところまで行き届いた仕事は大変なことだろう。もちろん、内容、デザインともに本としての魅力をそなえたものもおおくある。そんなカタログの楽しみ方を示してくれるのが本書である。


→紀伊國屋書店で購入