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『Italy and Its Invaders』Arnaldi, Girolamo /translated by Shugaar, Antony (Harvard University Press)

Italy and Its Invaders

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ルキノ・ヴィスコンティの映画「山猫」は、ガリバルディ上陸時期の元スペイン国王派シチリア貴族の斜陽を描いている。バート・ランカスター演じる男爵と、成り上がり者の娘を演じるクラウディア・カルディナーレが踊るダンスのシークエンスは、映画史における最も美しいダンスシーンのひとつだ。誰もが知るように、イタリアの町は歴史上多くの国・民族に征服されてきた。シチリアをその極端な例としてあげることは全く妥当であろう。半島のつま先に蹴飛ばされた位置する地中海貿易の拠点であり、その地勢的な魅力のために、古来、多くの民族にとって誘惑の対象であり続けた。ギリシャカルタゴ、アラブ、ノルマン、アラゴンに次々と占領されたこの島は、今ではいわば近代国家統一イタリアの占領を受けているような格好であろう。今では観光資源の宝庫であって、アグリジェントの神殿やシラクーザの劇場などのギリシャ遺跡、ピアッツア・アルメリーナのローマ人のモザイク、モンレアーレのノルマン・モザイクや柱廊など、地中海文化の遺跡や見所がとりわけ多く、その素晴らしい魚介料理の魅力もあって、現代ツーリズムの侵略を受けている最中だ。

八世紀のブレッシア司教アントニウスは「我々はイタリアに確かに住んでいるーしかしむしろテナントであると言ったほうがいい」とソロモン二世への手紙に書いている(本書より抜粋)。イタリア半島はもちろん確かに全体に実にイタリアらしい何かを共有している。しかし、町々の個性には、何世紀にもわたってこの半島を占領してきたドイツ・フランス・スペイン・ギリシャなどの外国の要素がそれぞれ混じりこんでいる。侵略の歴史がこの元来魅力的な地域を、更に魅力的にしたといってもいいだろう。その意味で征服者たちの歴史を知ることは無価値ではない。フレデリック二世、シャルルマーニュ、シャルル八世、ロジェール二世、それぞれに個性的な人物が個性的にイタリアの地域や町をその手中に収め、色々な決まりや特権階級や、税金の制度や土地制度を押し付ける。ピストイアの町に極端な例が見られるように、イタリア人特有の競争意識や裏切りや暗殺の心理はこうした外来君主との主従関係抜きでは正確に理解できないところであり、そこに外来勢力を一括して悪と決め付けるナショナリストマキャベリの思想の限界がある。

本書は2002年刊行のイタリア語原著「L’Italia e i suoi invasori」の翻訳版で、意外と横断的には語られることの少ないイタリアへの侵略者とその影響を美しい英語翻訳の文体で描写している。個人的に長い間待ち望んでいたイタリア史の一冊である。

(林 茂)

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