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『ロンドンの公園と庭園』門井 昭夫(小学館スクウェア)

ロンドンの公園と庭園

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ごく大雑把に言って、ロンドンとその周辺の公園はすごくフツーである。何かスペシャルなものを期待する向きであればがっかりするかも知れない。奇を衒ったものがない。ケントの城と名園(シシングハースト、ノール、スコトニ城、ヒーバー城)、サリーの典雅な庭の数々(ポルスデンレイシー、クレアモント、ナイマンズ)、グロスターシャーの廃墟(ヒドコット、ケニルワース城)など枚挙に暇ないカントリーサイドにある名園とは趣が大いに異なる。「ロンドンではイギリスではない」とよくイギリスの人たちが言うのも、ただの皮肉だけでなくこうした面にあるのだ。

イギリスの修道院―廃墟の美への招待」(志子田光雄、志子田富寿子)と対照して読むのがよい。芝生や樹木の緑と公園空間の充実、その多さ、自由さ。これらは、この国が何より誇りと自得するところであり、かりそめの旅行者といえども、足を踏み入れるのをためらうことはないだろう。

これは例えば、ローマのような町ではそうはいかない。公園(ジラルディーノ・ピュブリッコ)よりも、むしろ荘園附属庭園(パラッツオ)が質量共に圧倒的に勝り、それらは「見る」場所、愉悦のための空間である。ロンドンに比べるなら、マドリッドアテネもフランクフルトもコペンハーゲンも、都市内における憩いの空間となれば狭隘だと言わざるを得ない。パリでも到底及ばないのは、この大人の街には芝の公園(英語でいうところのコモン、グリーン、スクエア、パークなど)が全く不足していることだ。ヴェルサイユにあるマリ・アントワネットのラモーで「擬似イングリッシュガーデン」を見たときのショックは強烈であった。フランスの王宮の離れにある複製イギリス庭園。ロンドンをホームとして生活する日本人には柄も言われぬ違和感。自分がどこにいるのかわからなくなるような眩暈。

例えば、Lower John Streetの手作りサンドウィッチを買い求めて(オーダー式なので少々の英語力はいる)ゴールデンスクエアやバークレーズスクエアあたりで頬張るのもいい。この際、由緒や歴史などどうでもよかろう。ありきたりなガイドブックに頼らず、こうした書物で旅の下調べをするのも楽しいはずだ。

(林 茂)

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