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『第2の江原を探せ!』渡邉正裕・山中登志子+MyNewsJapanスピリチュアル検証チーム(扶桑社)

第2の江原を探せ!

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「全否定できない事実! スピリチュアル問題をジャーナリズムが初めて検証」

 スピリチュアルカウンセラー江原啓之さんの人気が衰えません。テレビ番組「オーラの泉」は相変わらず高視聴率をたたき出しているようです。江原さんを信じる「エハラー」と呼ばれる人たちが、その人気を支えているのです。
 この江原さんと人気を二分していた、占術家の細木数子さんは最近テレビから消えてしまいました。飛ぶ鳥を落とす勢いだったとき、細木さんに闇の勢力との交遊がある、という事実を、凄腕のノンフィクション作家と「週刊現代」(講談社)によって暴かれました。細木さんは反撃のために作家と出版社を高額の名誉毀損訴訟を起こしたのですが、自らこの訴訟を取り下げています。そしていつの間にか、テレビから「引退」なされました。いまは静かに暮らしているとの噂。

 諸行無常です。

 さてさて、この2人のスピリチュアル世界のガイドたちは、人々に「霊界はある」「前世はある」「守護霊がいる」といい、それらを「自分は視ることができる」と自信たっぷりに申します。

 私たちは、そんな馬鹿な・・・と思いながら神秘的なことを気にしてしまいます。

 果たして本当に霊界はあるのか? 前世はあるのか? 自分の守護霊はどんな人なのか?

 「科学的な証拠がない」と一蹴することは簡単で。実際に一蹴されてきましたが、それだけではスピリチュアルの信奉者たちと対話をすることはできないでしょう。

 本書は、スピリチュアルカウンセラーの真実を明かにするために、ニュースサイトMyNewsJapanが総力をあげて取り組んだ成果です。5人のジャーナリストが取材班に参加しました。

 

渡邉正裕さん(MyNewsJapan編集長 ジャーナリスト 日経新聞経営コンサルタントを経て現職。日経新聞を相手取って裁判を起こしたことがある)

 ・山中登志子さん(ベストセラー「買ってはいけない」の編集者として知られる。実業家、編集家。アクロメガリー当事者としてカミングアウト)

 ・三宅勝久さん(ジャーナリスト 消費者金融大手「武富士」の暗部を暴いた)

 ・林克明さん(ジャーナリスト チェチェン紛争がライフワーク)

 ・石井政之(ジャーナリスト 顔にあざのあるジャーナリスト)

 

 取材方針は「覆面潜入」。取材の申し入れは一切しませんでした。ひとりの客として、スピリチュアルカウンセラーと会います。許可を得たうえで会話のすべてを録音しました。これを文章化したのです。複数のジャーナリストたちで会話内容の真実性を検証しながら取材を進めていきました。

 私は取材開始したとき、霊界や前世、守護霊という存在を全否定という立場でした。しかし、わずか3人のスピリチュアルカウンセラー(きわめて優秀、という評価が定着した人たちです)に会っただけで、私の性格傾向、結婚の時期、職業の適性などをズバリ当てられてしまったのです。初対面のスピリチュアルカウンセラーに、氏名と生年月日を言うだけで、自分の心の中を透視されたようでした。

 スピリチュアルブームについては賛否両論がありますが、この分野はジャーナリズムからの検証がいまだ手つかずです。批判者は、評論をするに止まって、体験取材をしていない。信奉者は、個別の体験だけを語り、普遍的で検証可能な事実を語っていません。

 潜入取材によって驚くべき事実が次々と出てきました。

 

 

自分しか知らない亡き父の遺言を言い当てられる。

 借金の金額を言い当てられる。

 何年の何月に結婚するかを当てられる。

 会社の規模、経営者としての強みと弱みを生活に指摘される。

 

 初対面で、カウンセラーからの質問に何も答えていないのに、自分だけしか知らない事実が語られるのです。事実を検証、分析することに慣れたジャーナリストたちも、この事態に認識を新たにしていきました。

 スピリチュアルカウンセラーの世界は玉石混淆であることも分かってきました。明らかに何かの力をもっていると唸らせるだけの人はごく少数。他の大勢のカウンセラーたちは、「いまあなたは壁にぶつかっている」というような、ありふれたことしか言いません。これで1時間1万円ほどの料金を取っています。顧客が満足すればよい、というビジネスですから、適正な価格かどうかは分かりません。ですが、正確な情報が公開されていない世界ですから、カウンセリングの質の評価はたいへん難しい。そのぶん、アンフェアではあります。

 カウンセラーのなかには、インターネットからの申し込みで入力した住所情報をもとにグーグルマップで周辺を確認して、「東の方に龍神様がいる」(そこには川がある)というようなことを語る人もいました。わかりやすい詐術ですが、悩んでいる人は気がつかないかもしれません。

 取材前スピリチュアル的な世界観を全否定していました。取材後には、否定できなくなっていました。なぜ全否定から肯定派に転向をしたのか? は本書を読んでのお楽しみ、です。

 スピリチュアルカウンセラーが気になっている、というすべての人に読んで欲しいノンフィクションです。


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