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『金融大崩壊 「アメリカ金融帝国」の終焉』水野和夫(日本放送協会出版)

金融大崩壊 「アメリカ金融帝国」の終焉

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「リーマン破綻後の世界を読む」

エコノミスト水野和夫さんの名著『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』

では金融帝国アメリカがいかにして成立したのかが描かれていました。資本は国家を超えて動いており、その資本の流れの中心にアメリカが位置していた。そのアメリカ中心の金融システムがいつ崩壊するのか、前著を執筆中は読めなかったといいます。

 このアメリカ中心の金融システムが崩壊し、世界が変わったと認識できたのは、サブプライムローン問題の発覚後。その後リーマン・ブラザーズが巨額な負債を抱えて破綻。わずか半年でアメリカを代表する投資銀行メリルリンチなど)が消滅したのです。

 本書は新書ですが、たいへん内容が濃い。奥付をみると08年11月10日発行。09年1月2日時点でみても、情報の鮮度はほとんど落ちていません。アメリカのビッグ3の処理が決まる、1月末までは価値ある情報源として読めると思います。経済学とは、日々刻々と変わる経済動向を読み、分析することが責務であるため、ジャーナリズムの仕事と似ています。本書は、複雑な金融システムの激動を伝えるすぐれたジャーナリズムの実践になっています。

 水野さんの分析によれば、今回の金融危機は、「100年に1度」ではなく、16世紀に東インド会社からはじまった約400年続いてきた資本主義の転換点であるということです。

 資本主義が発展するための条件である、国家、資本、国民の三位一体でそれぞれが豊かになる、という「大きな物語」が、今回のサブプライムローンによる金融危機で崩壊しました。資本側が、サブプライムローンという金融派生商品を開発して、国民に売りつけたとき、このシステムは必ず破綻する(リスクは、国民と国家に押しつけられる)ということは明かでした。サブプライムローンをしかけた人間たちはリスクを巧妙に回避し、利益を手にして逃げ切っています。不良債権を押しつけられた国民と国家は、資本に裏切られたと水野さんは分析しています。

 日本の経済発展は、欧米先進国の消費によって支えられています。グローバル経済では日米経済は一体化しているのです。この欧米が金融危機にあるのですから、日本の輸出産業はあわてて収益予測を下方修正、派遣社員の削減に着手して社会問題になっています。 

 アメリカ経済はいつ上向きになるのでしょうか?

 水野さんによれば、今後5年はアメリカの消費は伸びません。サブプライムローン関連の不良債権をなくし、国民が消費する力をもつまで貯蓄するのに最低5年はかかるというのです。アメリカ経済5年分の需要を先食いしてきたため、そのツケを払うしかないという分析です。

 日本はどうすればいいのでしょうか。少子化高齢化が進む国内市場だけをターゲットしていては先細りは必至。欧米への輸出偏重だった日本の大企業群は、これを新興国にシフトすればよい。中小企業も国外の市場に打って出なければ活路は開けないし、それを政府は支援するべきである、と説きます。

 アメリカという親分が力を失い、いまからようやく、日本は自分でものを考えて行動しなければならないときがきています。

 しかし日本の政治は定額給付金などのばらまき型の経済政策しか思いつかないというありさま。日本の危機感が乏しすぎます。

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