『奇想ヤフオク学』橋本憲範(平安工房)
「古本を3億円売って世界一周!」
6年間で3億円の古書を売り切った、伝説の古書店エーブックスの店主が書いた、ヤフオクビジネスのすべて。
この本の存在をまったく知らなかった。
まずはこの書籍にたどり着くまでのことを書きます。
自動車の広報の仕事のなかで、ハイエースを使って多様なライフスタイルを送っている人について調査をしていました。
移動する古書店、という試みをしている人で、東京以外の地方都市でいないかなぁ、と。
「ハイエース」「古書」という二つのキーワードで検索してみます。水と油のようなコンセプトのキーワード検索だと思いました。そのなかに、エーブックスの店主のブログが見つかりました。
http://abook.jugem.jp/?eid=450
頼んでおいたハイエースが来た。待望の仕事専用の車である。これで家族に気兼ねなく仕入れにいけることになる。
ハイエース(正確にはレジアスバン)を選んだのは、荷物が積めないから、買うのを控えるということにならないようにしたいという思いからだ。
普通の駐車場が利用でき、最大級の積載となれば、ハイエースになる。
トヨタ以外にも似たような車はあるが、金もない私の家にちょくちょく訪ねてきていたトヨタのセールスマンの売上げにしてあげようという気持ちも少しはあった。
荷台が大きければ、いらない荷物を積んでおくこともでき、簡易の倉庫としても使えるだろう。
こういう人を探していた! とガッツポーズ。
と、それからブログを読み込んでいくと、たいへんな文章力。しかも、書籍も出していることがわかりました。
本書は、この伝説の古書店エーブックスのブログ本です。
文章がうまいのは、それもそのはず。店主は放送作家の経験があり、小説家志望でした。作品のいくつかが小説の賞の最終選考に残るほどの実力の持ち主。
その橋本氏が35歳。2000年。小説家デビューのために仕事を辞めて背水の陣で執筆に集中したものの、作品は書けず行き詰まる。そのときに蔵書をヤフオクで売って小遣い銭稼ぎをするように。その魅力にはまってしまい、ヤフオク専門の古書店経営に踏み込んでいきます。
橋本氏は、サラリーマン歴2年半。あとは放送作家、小説家になるための糊口をしのぐための宅配便ドライバー、というフリーランスの仕事の経験はありますが、インターネットにも古書業界にも詳しくない、いわば素人。
ダメになったら辞めればいい、という脱力系の決意からはじめたビジネス。業務の効率化と改善への努力が、売り上げアップにつながることを知り、商売人として目覚め成長していきます。
リアル店舗の経営に挑戦して失敗したり、アルバイトを雇って社会貢献をしようとするけれどすぐに退職したり。
経営者としての普通の経験を積んでいく姿を、肩の力を抜いたブログ文体でサクサクと描かれます。
橋本氏は、古書を大量に仕入れ、大量に売り切るというノウハウをもったために、同業者からその豪腕ぶりが噂になるほどになってきます。
しかし、ある日儲かっていても充実感がない、と気づいて、古書ビジネスを辞めることに。店じまいをしたときに、税務署の調査員3名が突然やってきます。
これで、一巻の終わりかな、と思いきや、2007年に1年かけて世界一周の旅に出てしまいます。きっちり貯めていたんですね。さすがです。
こういう人生、いいよね。
無冠の帝王みたいでさ。