『新世紀書店』北尾トロ・高野麻結子(ポット出版)
「田舎に本の町を作るという夢が実現する!」
今週末、8月29日、30日の両日、長野県伊那市高遠町で「高遠ブックフェスティバル」という日本初のイベントが開催されます。
私はこのイベントに、「移動する書斎・書店」というコンセプトのワンポックスカーを展示するために静岡県浜松市から乗り込む予定です。7月中旬に下見のために高遠入りして、このイベントの実行委員会がおかれている「本の家」 の斉木店長に挨拶をして、展示用のクルマを交えたうち合わせをしてきました。
そのときに買ったのがこの『新世紀書店』でした。
なんで長野県の田舎で、ブックフェスティバルなのだろう? なぜ斉木さんは東京の西荻窪の古書店を引き払って移住したのだろう?
高遠ブックフェスティバルの公式サイトで告知済の情報には書かれていない、理由を求めていたのです。
だって、東京という出版ビジネスの都から遠く離れた田舎で、本の町をつくる、という大きな町おこしが成立するわけがないじゃないですか?
ところが、その非常識を成功させた事例があります。
ライターの北尾トロ氏は、斉木氏とともに、ヘイ・オン・ワイという古本の町の「王様」リチャード・ブース氏にインタビューをし、その町おこしの歴史をたどります。
「1961年、リチャード・ブース氏が1軒の店を買い取って古本屋を開店するまで、ヘイはどこにでもあるさびれた過疎の町だった」。
ブース氏は着実に店舗を拡大し、さまざまな古書店が出店するようになり、1960年代後半には古本の町として有名になっていきます。ブース氏が1号店を開店してから約半世紀がたち、30以上の古書店が軒を連ねています。そして年に1度の「ヘイ・フェスティバル」では、作家のリーディング、サイン会、コンサートなどが開催され、国内外から多くの観光客がやってくるという大きな経済効果を生み出すようになっている。
ヘイの旅を終えての北尾の感想がいい。
「さて、我々の目指すブックタウンはいかなるものか?」
神田の神保町のようななんでもそろう書店群が、田舎に出現しても意味はない。地域住民と、新しい移住者との関係作りも重要。アマゾンのようなブックビジネスにはない別の本の楽しみ方を提供しないといけないだろう。
「そこにいるということ自体を目的にしても十分楽しめると共に、生きていくに足る収入が得られて生活が可能なこと。そして、ゲスト皆様には我々が最初にヘイに着いたときに感じたようなワクワク感をいつも感じてもらえるような場所。さらに、その周辺に住む人々、とくに子供たちの好奇心を満たすような存在にならなければならない。学校とは違う学びの場所として、本の町に行けば何かがある、そんな秘密基地のような楽しいところを作りたい。売れそうな本、売れている本だけではなくていつか必要とされる地味な本たちもいつもそこに存在すること。よき図書館のように」
下見に行ったとき、伊那市から高遠に至る緑の景色の美しさにはっとしました。急ぎの旅ではなかったせいもあるかもしれません。道沿いの川には、若い父母と、小さな子供の3人家族が、網を持って水面をのぞき込んでいました。魚か虫をとろうとしてたんじゃないかな。高遠に着くと静寂。蝉の鳴き声。風の音。それだけしか聞こえない。「本の家」に入ると、西荻の書店としても通用する品そろえの人文書がつまった書棚。できることならば1日ずっと居座って珈琲をすすって本を読んでいたい、という居心地の良さ。
高遠という町も、そこにある本屋もすばらしい!
数人の着想から生まれた、日本版ブックフェスティバルがこの高遠で開催されます。
高遠が本と旅が好きな人の聖地になる現場に立ち会いましょう!