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「スーパーエンジニアが脳を解明!」

脳関連の書籍が激しい勢いで多数出版されているが、脳の知性を実現する実装手法まで示唆したものは少ないだろう。
本書の著者Jeff Hawkinsは、圧倒的シェアを誇る携帯端末「Palm」の生みの親であるスーパーエンジニアである。いわゆる人工知能を駆使した文字認識システムの出来の悪さに驚いて、Palm搭載の標準文字入力手法である「Graffiti」を2日で開発してしまったほどのハッキング力を持ち、Palmマニアからは神のように尊敬されている好人物である。そのような究極の成功者であるエンジニアが何故突然脳の研究を始めたのかと思ったら、実は順番が逆で、学生時代から興味があった脳の研究を好きなだけ行なえるようにするために携帯端末ビジネスを立ち上げて大成功させたということらしい。凄すぎる!
さて、Hawkins氏の理論によれば、知能の源泉は脳の自己連想機能にもとづく予測機能なのだそうである。知能の中枢である大脳新皮質は階層的な構造になっており、詳細な入力を一般化したデータがニューロンを経由して上位階層に伝達されつつ、上位からは予測値が逆に伝達されこれらが常に比較されるという処理が記憶や知能の源泉であるらしい。このモデルは実際の脳の構造と一致しており、様々な現象をうまく説明できる。またこれと同様のことを実行できるハードウェアは10年以内に実現可能だという。How Cool! 本当に脳的な知性が実現されたとしたら、哲学的議論や心理学的成果の多くは存在意義を失うだろう。こういう夢のある話は実にワクワクする。
Jeff Hawkinsは最強の直感力をもつスーパーエンジニアである。何故この構造で意識やクオリアが生じるのか、などナイーブな議論もあるのだろうが、彼ほどのエンジニアが知能の実現が可能だと言っているのだから私はそれを信じる。10年後の成果が非常に楽しみである。

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