『乳児保育の基本』汐見稔幸・小西行郎・榊原洋一【責任編集】(フレーベル館)
「横綱級の課題図書!」
乳児に関わる人にとっての、平成の課題図書。
しかも横綱級。
乳児保育の基本。基本とは、何か。
こうあるべき、といった議論ではない。かといって、マニュアルでもない。
毎日の実践の中でくりかえし、丁寧に積み重ねていくことで得たもの。
その現場の声や実践をきちんと汲み取り、切り取り、紡いでいくことで見えてくる「基本」。
理想が先にあって、それを目指すのではなく、
縦糸と横糸を織りなすようにできあがっていく生活のなかの育ちをまとめたものとなっており、
ある意味では、はじめての「育児書」ならぬ「保育書」かもしれない。
ここまで示す必要があるのだろうか、と驚かれることがらもあるかもしれない。
しかし、事態はそこまで迫っているのだろうと感じた。
平成19年度、47都道府県で実施される保育士試験には4万人近い受験者があり、
うち合格者は8千人弱であった。
もちろん大学や短大・専門学校といった保育士養成校を卒業して資格を得る人もいるのだが、
心配なのはその人たちと違い、「受験」で合格して資格を得た人は、実習などはなく、
ペーパーテストと実技で保育士になれてしまうことだ。
3年以内に10教科すべてを6割以上得点し、すべての学科をクリアしないと実技にいけず、
しかも年に1回の試験しかチャンスがないので、簡単に取れる資格ではないことは確かだ。
すでに保育所で働きながら資格取得を目指している人や、
子育ての経験を生かして受験する人なども多くいる。
それにしても、自身が親になるまで、一度も赤ちゃんを抱いた経験がない人が増えている。
また、虐待対応や、地域の子育て支援など、新たな課題もでてきている。
歴史が浅く、今後ますます求められるであろう乳児期の保育について
経験の少ないまま現場に出る担い手のみならず、現職で実践している保育者であっても、
もっと学ばなければならないことが多分にあるのだ。
個人で購入するだけでなく、職場にも一冊、お勧めしたい。
目線をそろえていくためにこの本をつかってのワークショップや、話し合いが有効になるだろう。
個人でのスキルアップだけに求めず、職場やグループで学びあうこと自体が
保育の質にもつながるし、なにより子どもへのまなざしがより深まるであろう。