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『すべてがFになる』森博嗣(講談社)

すべてがFになる

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ネットワークやセキュリティの学習を始めようと思ったときに、ネックになりやすいのがテクニカル・タームの多さである。出てくる都度、調べていけばよいのだがとても面倒くさい(これを解決するためにハイパーテキストが生まれたという話題は今回は取り上げない)。こういう状況で一般的に使われるのが用語集で、その利便性を認めないわけではないのだが、言葉の意味だけを把握しても利用シーンがイメージできない、という悪循環にはまりやすい。やはり技術というのは使えてナンボであるから、「実際にこう応用できる」というベストプラクティスがあるとよい。

その用途に使える小説として本書を紹介した。著者の森氏は某国立大学の助教授。超多忙にも関わらずメールのレスポンスが速い謎の人物。仕事術の本を書いたら中谷彰宏の上を行くかも。一つ一つの言葉に対する思い入れが強く、語彙にぶれがない。安心してテクニカル・タームを学ぶことができる。基本的にはミステリだが、おたく要素やアカデミック要素も強いのでこの種の世界が好きであればミステリファンでなくても楽しめるであろう。大学教員の生活風景を覗きたければ同著者の「水柿助教授の日常」(幻冬舎)もおすすめ。

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