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『シャーロック・ホームズの帰還 』ドイル,アーサー・コナン(河出書房新社)

シャーロック・ホームズの帰還

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暗号理論は数学と密接に結びついている。したがって、暗号の本質に触れるためには高等数学を避けて通るわけにはいかないのだが、初学者には本書のようなアプローチもありだ。本書収録の「踊る人形」において謎を解明していく方法は、換字式暗号の作成・解読プロセスそのものである。一般的な暗号入門書を読んで、「暗号アルゴリズム」「鍵」などの概念に馴染めなかった方には是非お薦めしたい。

 もちろん、物語としての面白さは折り紙付きである。コナン・ドイルは「最後の事件」で執筆に手間のかかるホームズシリーズを一度は終わらせてしまったが(プレッシャーから解放された喜びを綴った手紙まで残っている)、読者の声を無視できなくなり満を持して再開した後の最初の短編集が本書だ。「金縁の花眼鏡」など、ミステリ作家として脂が乗り切っていた頃の珠玉の短編が楽しめる。

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