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『こんにちはマイコン』すがやみつる(小学館)

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 私がこの業界に足を踏み入れるきっかけになった本である。内容はよくあるハウツーものだが、80年代において小学生向けにマイコン(この言葉自体が泣かせる..)の書籍を出版しようと考えた小学館の蛮勇には頭が下がる。当時、コロコロコミック(だったか?)で人気を博していた「ゲームセンターあらし」がプログラミングを教えてくれる構成になっている。
 ゲームセンターあらしは、ジョイスティックを高速操作することによって自機をワープさせる(そんな操作に対応しているインタフェースがどこにあるのか)「炎のコマ」などの荒唐無稽な技を繰り出す少年だったので、いったいどんな講座が展開されるのか子供心にも不安だったが、意外に論理的かつ冷静な語り口で言語を教えてくれた。
 講座が対象としている「マイコン」はPC-6001なので、取り扱うのは当然N60-BASICである。最終的には、歳の数だけローソクを表示して吹き消すプログラムを作るまでになるので、けっこう本格的だ。私はこの本を読んでどうしてもPC-6001が欲しくなって、お小遣いを何年か分前借りして購入した。今にして思えば、人生の正道を踏み外した瞬間である。
 PC-6001はお世辞にも十分な処理能力があるコンピュータではなかったし、N60-BASICのインタフェースも恐ろしいほど貧弱である。グラフィックはちょっと凝ったものを作ると、食事を済ませてきてもまだ描画しているし、オブジェクト指向プログラミングなんてやろうと思ってもできない。あれに興味を感じて、のめり込む小学生は少数派かも知れない。今の子であれば、最初に触れるプログラミング言語squeakあたりか。
 確かに気の利いた石を載せたWindowsマシンで動かす第4世代言語は快適だろう。音も映像も多彩で、キーボードすら使う必要がない。初学者の学習環境は飛躍的に改善された。それは議論の余地がない。しかし、「綺麗な絵が出て、驚くような音声が再生され、マウスを使って遊び感覚で使えるから、プログラミングに興味を持って!」というメッセージによって喚起される子供の好奇心とは、本当の好奇心と言えるのだろうか?

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