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解説者による戦力分析:新刊JP山田さん

%E5%B1%B1%E7%94%B0%E3%81%95%E3%82%93.jpg「解説者による戦力分析」の記念すべき第一回は、前回フェア「対決! 共鳴し合う作家たち」の頃からお世話になっている新刊JP編集部の山田さんにお越し頂きました。山田さん、よろしくお願い致します。

──まず、先日ようやく完成したブックレットをお渡しさせて頂きます。

山田:ありがとうございます。おお。こういうものをただで頂いても宜しいのでしょうか。

──大丈夫です。無料配布するものなので。

山田:販売できるクオリティだと思います。凄いですね。完成前のPDFを見せて頂いた時に思ったんですけど、マニアックかと思いきや、抑えるところは抑えてるんですよね。…何だこれ、「クマに注意」って書いてありますね。

──それは『クルイロフ寓話集』ですね。ではそろそろインタビューに移らせて頂いてよろしいでしょうか。まず、今回僕たちが「ワールド文学カップ」というフェアを企画していると聞いた時、どんなものが出てくると思いましたか?

山田:前回は文学フェアとしてわりとすんなり納得出来たんですよ。だけど、今回は規模が大きくなりすぎていて、すごいな、と思いまして。

──入れている冊数とかに関しては前回とあまり変わらないんですよ。前回より100冊位多いだけで。

山田:前回は「対決」と銘打っていたけれど、別に対決はしていなかったじゃないですか。でも今回は国ごとに売り上げを比べるということで、企画としてはよりクリアになったなという感じはしましたね。

──もうそんなことまでご存じなんですか?

山田:座談会を読ませて頂きました。わかりやすい企画になったんじゃないかな、と思います。

──ただ、当然ながらこのわかりやすさには罠があって、国の選択が恣意的というか、我々の思想に則ったものなので、一筋縄ではいかないラインナップにしたつもりです。じゃあブックレットを初めてご覧になった時、どんなことを思われましたか?

山田:そうですね、完成前のPDFを送ってもらった時は、スクロールしてもスクロールしても終わらないなと(笑)。これ本になったらどれくらいの厚さになるんだろうなと、ちょっと楽しみではありましたね。

──なるほど。内容に関してはどうですか?

山田:内容は、そうですね。さっきも言ったように全然マニアックじゃないというか。抑えるべきところはちゃんと抑えているので、これから本とか読んでみようかなという人には、これは参考書になるのでは、という風に感じました。

──ありがとうございます。フェアのタイトルを聞いた時はマニアックだという印象を受けたんですか?

山田:僕自身が思ったというよりも、職場の人たちにこのフェアの主旨を僕が説明した時に、「またマニアックなことやってるな」と言っていたので。僕はそうじゃありません、って主張していたんですが。

──マニアックな側面を残しつつ、間口はかなり広げたつもりです。

山田:はい。マニアックなだけじゃないな、と感じました。

──このタイトルだと外国文学のイメージが先に来て、マニアックな印象を受けやすいのかもしれませんね。外国文学そのものがマニアックになりつつある風潮の中では。

山田:本について詳しい方って沢山いらっしゃるんでしょうけど、そういう人の誰でも、ここに載っている本はある程度選ばれたのでは、と感じると思います。あと、地図とか載っててワクワクします(笑)。

──嬉しいですね。

山田:次回は僕も選者に入れて欲しいです、個人的な欲求として。休日でも行きます。

──こちらこそお願いします。梅崎さんとタッグを組んで日本文学を紹介して欲しいです。ところでこの日本文学の選書はどうですか?

山田:そうですね、「Road to 2014 現代日本」は秀逸だと思いました。ちゃんと青木淳悟が入ってますし。

──そこ?(笑)

山田:いや、やっぱり実力ある人は入れないとなって。

──「日本文学代表選抜会」はどうですか、日本文学の156冊は? ちなみに山田さんの大好きな大江健三郎はですね…。

山田:『性的人間』が入ってましたよ! 必死に推しましたので(注1)

──選書会議の時から推して下さってましたね。

山田:『性的人間』は僕、目が覚めましたからね。「ああ、二十何年間寝てたんだな」と(笑)。日本文学の方は全体を通して見ても、選び方に嫌味なところもないし、興味をそそりますよ。これ読んでみようっていう。

──座談会でも言ったことですが、ここが入口なんです。「ワールド文学カップ」と銘打ったものの、実際のフェア会場で最初に目に入るところには、この日本文学が並びますから。

山田:入口としてはすごいですね。

──ちょっと重すぎですよね(笑)。

山田:いや重いけど、このブックレットを持っていたら「次は何を読んでみよう」って見ることができますので。

──山田さんは前回フェアのブックレットを常に持ち歩いて下さってますからね。今度からはこっちに変えて下さい。

山田:いや、両方持ちますよ。皆さんすごい知識を持っていらっしゃるし、ともすると、そういう知識をひけらかすようなブックレットにもなりやすいかと思うんですけど、そういうのがないから、ブックレットとして誠実だと思いますよ。

──嬉しいですね。褒められに来たような気分です(笑)。

山田:僕がピクウィック・クラブをけなすはずがないじゃないですか。一員だと思ってますからね。

──ありがとうございます。実はわかっていて呼んでいます(笑)。ではこのあたりで、「ワールド文学カップ」の気になる国をお伺いしてもよろしいですか?

山田:そうですね、旅行で行ったこともあるので、気になるのはインドですかね。そういえば『真夜中の子どもたち』を買ったばかりです。

──古本屋で売っていたんですか?

山田:すぐに欲しかったので、インターネットで買いました。上巻だけ。

──下巻を見つけるのは大変そうですね。

山田:僕にとってインドの入口はラシュディなんですよ。エイモス・チュツオーラの『やし酒飲み』を読んでからアフリカ・インド熱が高まっていて、これから読んでいきたいと思っているんです。

──ラシュディが手に入らないのは本当に残念なことですね。

山田:ナイジェリアのベン・オクリも気になっていて。彼は「チュツオーラの後継者」的な扱いをされているんです。

──チュツオーラの後継者(笑)。

山田:彼の『見えざる神々の島』とクッツェーの『エリザベス・コステロ』と、さっき言ったラシュディを一緒に購入したんですよ。ところで、クラブメンバーを除いて外部でポップを書いた人って、僕以外にもいらっしゃるんですか?(注2)

──いないですね。ピクウィック・クラブ以外では新宿本店の2階と6階と7階の人が書いてくれましたが、社外の人は山田さんだけです。

山田:おお、光栄ですね。

──ではそろそろ優勝予想をお願いします。

山田:一人で買いまくって優勝させてしまいたいのは、さっきも挙げたインドです。

──アラヴィンド・アディガなんかがどう食い込んでくるのか気になりますよね。ブッカー賞作家ですし。

山田:でも実際に行ったら結局まんべんなく買っちゃうと思います…。

──是非、貯金しておいて下さい(笑)。

山田:やっぱりインドが気になりますね。買うと思います。優勝を予想するとなるとまた別の国になると思いますけど。

──優勝予想だと、どこになりますか?

山田:え、真面目に答えていいんですか?

──真面目に答えて下さい。いや、ふざけてもいいです(笑)。

山田:フェアにどんな方が来るのかなって考えた時に、フランス文学ってこれから文学を読み始めようっていう人たちには気になるところなんじゃないかな、と。だからフランスが優勝すると思います。

──フランスは四つあるんですが、どのフランスですか?

山田:これは別チームと考えていいんですね。それだったら「悪女の巣窟フランス」ですね。

──「悪女」は相当堅いですからね。古典だけで集めましたし。ピエール・ルイスだけちょっと違うけれど。

山田:「悪女」は何というか、「悪女」っていなくなっちゃいましたからね。もはや本の中にしか存在しないということで希少価値があるかと。僕は常に悪女を探していますからね(笑)。

──でも、『赤と黒』や『ボヴァリー夫人』など厚めな本も多いところなので、難しいかもしれません。

山田:いや、優勝国は「悪女の巣窟フランス」ですよ。

──ありがとうございます(笑)。じゃあちょっと話題を変えて、山田さんのベストイレブンを教えてください。フェアに入っていないものでも構いません。

山田:ベストイレブンですか。

──作家でも作品でも良いです。

山田:ポジションとかはあるんですか?

──勿論です。まずゴールキーパーは?

山田:キーパーは、定番ですけれど堅いところで『百年の孤独』かな。

──おお。ではセンターバックは? たまに攻め上がりますよ。

山田:じゃあ、これも堅いところで『万延元年のフットボール』です。

──センターバックは二人欲しいですね。もう一人、『万延元年のフットボール』とコンビを組むのは?

山田:コンビを組める相手? 難しいな。あれかな、『人間そっくり』。

──安部公房ですね。ひどいチームだ(笑)。じゃあサイドバックはどうですか? 上手いセンタリングをあげるような。

山田:何だろうな。あ、あれです。『風の歌を聴け』。

──あ、サイドバックっぽいですね。「風」とか入ってるし、足が速そう。

山田:あれを読むと次の読書に繋がるんですよね。

──確かに。素晴らしいですね。逆サイドは?

山田:逆サイドは、あれで。あの、フォークナーなんですけど、タイトルなんでしたっけ?

──『アブサロム、アブサロム!』? 『響きと怒り』? 『サンクチュアリ』?

山田:あ、『サンクチュアリ』。

──あれいいですよね。僕が初めて読んだフォークナーは『サンクチュアリ』でした。じゃあボランチは?

山田:ボランチって中盤の守備的なポジションですよね? そうだな。ああ、なんだろう。あれです。『予告された殺人の記録』です。

──ボランチっぽい。

山田:どこにでも広がる感が。

──面白いです。じゃあ右サイドハーフは?

山田:じゃあ、あれを入れましょう。青木淳悟の処女作『四十日と四十夜のメルヘン』。

──続いて左サイドハーフは?

山田:ベタなんですけど、『コインロッカー・ベイビーズ』。実はこれ、結構好きなんですよ。村上龍は愛情の裏返し的に嫌ってるんです。

──今のお前は何だ、と。『希望の国エクソダス』あたりから変わりましたよね。

山田:そう。小説書けよって。経済にとりつかれた。

──じゃあいよいよトップ下は?

山田:これはわりと選び易くて、『文体練習』。

──おお、クノーがここに入りましたか。攻めすぎですね。じゃあ2トップいきましょう。

山田:あれいきましょうか。あれを入れないのは気が引けるんで。『スローラーナー』を。

──ちょっと破壊力ありすぎですね。「ピンチョン=サリンジャー説」が本当なら、もう小説出ないかもしれないですね。

山田:あれって都市伝説じゃないんですか?(笑)

──では最後のフォワードは? 

山田:奇抜なのがいいな。なんだろうな。これ入れたいんだよな。チュツオーラ氏(笑)。

──『やし酒飲み』ね。これ、超面白いですよね。

山田:いや、本当に超面白いですよね。

──じゃあ最後の枠は『やし酒飲み』ですね。これで11人。

山田:河出書房版の世界文学全集でこれと一緒に入ってる『アフリカの日々』もかなり面白かったですよ。

──イサク・ディーネセンですね。

山田:主人公が欧米からアフリカに入植しているんですけど、使用人として使っていたカマンテっていう現地の少年が好きなんですよ。

──ディーネセンはヘミングウェイが晩年に回想するくらいの人なのに、何だか若いイメージがありますよね。

山田:写真を見ると結構美人なんですよ。

──池澤夏樹編集で読むのも楽しいですよね。チュツオーラに話を戻すと、先日もう絶版になっている『妖怪の森の中の狩人』を読んでいたんですが、こちらはあまり面白くなかったですよ。訳がしっかりしすぎていて。

山田:『やし酒飲み』の訳はあえて、ですます調と言い切り型を混ぜた訳になってたりしてるんですよね。あれは元々の英語がそういう英語で書かれているから、わざとそういう訳にしているんです。

──逆に『妖怪の森の中の狩人』はちょっと完成され過ぎている感じがあって。言語が達者になって逆に面白さがが薄れることってありますよね。アゴタ・クリストフとかも同じで、フランス語を全然使えない内に書いた『悪童日記』は素晴らしいけど、『ふたりの証拠』とかになってくると難しい語彙なんかも扱えるようになってきて、内容的に薄くなってる気がします。

山田:これは訳した人の功績が大きいですよね。

──さぁ、これでベストイレブンが出揃いましたよ。

山田:ガルシア=マルケスが二冊入っているんですけど大丈夫ですか?

──大丈夫です。このチーム、堅いですね。『百年の孤独』がキーパーだなんて、何も通らないですよ。

山田:あ、でも控えのキーパーで、『ドン・キホーテ』を入れたい。

──『ドン・キホーテ』を控えさせるなんて贅沢ですね。じゃあついでに、控えフォワードは?

山田:なんだろう、『性的人間』(笑)。あ、『性的人間』の中の「セブンティーン」。

──絞りますね(笑)。

山田:あんなに暴力的かつ攻撃的な作品は他にないですから。

──これに勝てるチームなんてあるのかな。では、最後にこのフェアに来てくれるお客さんにメッセージをお願いします。

山田:ちゃんと基本的なところを抑えつつ、各方面に触手を伸ばしている選書なので、是非来て頂きたいです。実は、自分の好きな本とかってあまり人に知られたくないのですが、この企画ならおもしろいから是非って思いました。本当に読まれるのが惜しいような本も多いんですが、是非一度見に来て下さい。

注1:山田さんは企画段階での選書会議にも参加して下さいました。

注2:今回のブルガリア代表エリアス・カネッティの『眩暈』は、山田さんがポップを担当して下さいました。

■山田さんが選ぶベストイレブン

FW:エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』

FW:トマス・ピンチョン『スロー・ラーナー』

MF:レーモン・クノー『文体練習』

MF:村上龍コインロッカー・ベイビーズ

MF:青木淳悟『四十日と四十夜のメルヘン』

MF:ガブリエル・ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』

DF:ウィリアム・フォークナーサンクチュアリ

DF:村上春樹風の歌を聴け

DF:安部公房『人間そっくり

DF:大江健三郎万延元年のフットボール

GK:ガブリエル・ガルシア=マルケス百年の孤独

控えFW:大江健三郎「セブンティーン」『性的人間』

控えGK:ミゲル・デ・セルバンテスドン・キホーテ

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(2010年3月5日、新宿の喫茶店にて)

(インタビュー・記事:蜷川・木村)

山田さん、どうもありがとうございました。ピクウィック・クラブは山田さんの編集しているWEBページ、「新刊JP」上の「ブクナビ」にて、毎月書籍を紹介させて頂いています。山田さんが日夜更新している公式ブログ「考える前にクビを突っ込め!」も、出版業界に興味のある方にはこの上なく面白い内容です。ピクウィック・クラブのことも取り上げて下さいましたので、是非合わせてご覧下さい。