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『第四の消費―つながりを生み出す社会へ』三浦展(朝日新聞出版)

第四の消費―つながりを生み出す社会へ

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「個人化の果てに生まれた、消費社会の新たなステージ」

 現代は、個人化社会であるといわれる。人の手を煩わせずとも、ほとんどのことが自分一人でできるようになりつつある。ケータイやスマートフォンさえあれば、いつでもどこでも、好きな音楽を聴いたりゲームを楽しみながら、欲しいものを買うことができる。こうしたふるまいは、個人化した消費行動の典型例ということができるだろう。

 一方で、かつてボードリヤールが看破したように、消費とはコミュニケーションである。我々が消費をするのは、単なる欲求の充足としてではなく、記号的な差異化に基づいた連他的なコミュニケーションとしてである。

 とするならば、ここで一つの疑問がわきあがる。個人化が徹底された果てには、コミュニケーションとしての消費行動は一体どうなってしまうのかと。自分が欲しいものを自分のためだけに買って完結するならば、単なる欲求の充足に過ぎなくなってしまう。

 だが、本書で三浦展が示しているのは、それとは異なった見立てだ。三浦が主張するのは、むしろ個人化の極北においてこそ、新たな連他的コミュニケーションとしての消費行動が芽生えてくるのだという。それがかつての連他的なコミュニケーションと違うのは、あくまで個人に重点が置かれているという点だ。

 すなわち三浦の時代区分に従えば、戦前1912~1941年の第一の消費社会は国家のための、1945~1974年の第二の消費社会は会社や家庭のための消費の時代だったが、「滅私奉公」という言葉があったように、これらはあくまでも個人よりも集団に重きが置かれた時代であった。

 そして自分(個人)のための消費を行う、1975~2004年の第三の消費社会を経て、むしろ今日では、個人化した個人にあくまで重点を置きながら、新たな連帯が模索される時代が来たのである。

 その具体例として、本書では「シェアハウス」や「地域社会圏モデル」といった試みが取り上げられている。これらは三浦が現在力を入れて取り組んでいる試みでもあり、その点で彼のこれまでの業績を俯瞰的に眺めるという点からも本書は有用である。

 このように、今日の新たな消費社会状況をとらえるうえで、他の著作と違い、場当たり的に物珍しい事例だけを取り上げるのではなく、骨太な社会学的時代診断に基づいた分析がなされた本書の内容は説得的である。

 今日の社会状況に関心のある、幅広い読者にお読みいただきたい一冊である。


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