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『ビッグデータ時代のライフログ―ICT社会の”人の記憶”』安岡寛道 編(東洋経済新報社)

ビッグデータ時代のライフログ―ICT社会の”人の記憶”

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ライフログはいかに活用されるか=便利でお得で、安心安全な社会は築けるか」

 本書は、近年注目を集めつつある「ライフログ」に関する総合的な研究の成果である。ここでいうライフログとは、「人間の行い(Life)をデジタルデータとして記録(Log)に残すこと」あるいは「蓄積された個人の生活の履歴」のことをいう(本書P2)。

 具体的には、ケータイのアドレス帳であったり、SNS上の各種個人データ(友人数などプロフィールに関するもの、あるいは、やり取りの記録など)を思い浮かべるとわかりやすいだろう。あるいは、スイカパスモといった電子マネーを利用した行動の記録などもこれに該当する(具体的には本書P6~7の図表のまとめが分かりやすい)。

 もちろんこうした記録は、いままでもアナログな形で残されてきたものである。ビジネス手帳であったり、保存された年賀状の束、あるいは家計簿などがそれに該当しよう。これら既存のデータと比べた場合に、今日のライフログの特徴は、デジタル化が進むとともに、言うなれば人々の記憶の外部化および一元化が進んでいるということができる。

 そして当然のことながら、こうした変化には功罪両面が存在する。

 人間の記憶力には限界があるから、外部化・一元化して保存しておくことで、便利になる側面はいくらでも存在する。それは、つい名前と顔を忘れがちな昔の知人であっても、顔写真入りで連絡先を保存しておくことができるというだけにとどまらない。たとえば、よく利用するオンラインショッピングのサイトが、自分の購入履歴をデータ化しておくことで、次に欲しい商品の発売予定が明らかになったとたんに、メールで知らせてくれたりもする。

 こうした変化は、効率の観点から言えば、企業などにとっても好ましいものだから、現金よりは記録が残りやすい、電子マネーであったりクレジットカードの利用がますます促されるようになっていき、さらには同種のサービス間での囲い込み競争も起こるようになる。

 一方で、人間の記憶が外部化・一元化されるということは、ひとたびそれが流出すると、以前とは比べ物にならないほど、大きな問題が起こるであろうことも想像に難くない。とりわけ、自分にとって好ましくない情報が流通した場合、人間の記憶ならば時間とともに薄れていくであろうところが、デジタル化されたデータは、理論上は半永久的に残り続けてしまうことになる。

 本書は、こうしたライフログを活用した便利でお得な社会のありようだけでなく(第2章)、そこで注意を払うべき個人の権利であったり(第3・4章)、技術的な基盤とその実状(第5章)、そして今後の展開(第6章)にまで視線がいきわたった、バランスの良さが特徴的な著作となっている。

 というのも、13名の専門家によって書かれた研究報告書が元になっているからだというが、ライフログという論点について、一方的に礼賛/批判するのではなく、バランスよく様々な視点に注意を払いながら、今後を建設的に展望していこうとする本書は、ぜひ関心のある多くの方に読んでいただきたい一冊である。


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