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『腐女子実録24時―FJS24―』種十号(エンターブレイン)

腐女子実録24時―FJS24―

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「「虚構の現実化」と「現実の虚構化」の合わせ技」

 本書は、いわゆる腐女子を対象とした、昨今流行の「あるある」本の一つでありながら、それらの多くがせいぜい一コママンガを交えた細切れのエピソード集であるのに対し、四コママンガにストーリー化されていて、それ自体一つの作品として楽しめるのが特徴となっている。

 虚構と現実の世界をないまぜにしながら楽しんでいる彼女たちの様子を、いわゆる「日常系」的なタッチで淡々と描いており、本書自体一つのマンガ作品として楽しみながら、腐女子の世界を理解することができるようになっている。

 腐女子の世界を描いたマンガ作品はすでに複数存在しており、それらを合わせて読むことでより深く理解することができるようになるだろうが、本書はそのハンディさと、しかしながら、コスプレイヤーに加え鉄子も取り上げると言ったように、さまざまなジャンルをカバーする内容面の広がりからして、初心者向け「腐女子入門」に適した一冊であるように思う。

 本書を読んで改めて感じたのが、女性のオタクにあたる「腐女子」と男性のオタクとの違いだ。この点を考える上では、宮台真司の言う「虚構の現実化」と「現実の虚構化」という概念が参考になる。

 そもそも男性を中心としてきたオタク文化の根幹をなしてきたのは、「虚構の現実化」だ。現実から逃避して虚構の世界へと飛び込んだ人々が、虚構の世界のリアリティを現実にも持ち込もうとすること。いわば、コスプレイヤーの世界などはまさにこれだと言えるだろう。アニメやゲーム中のお好みのキャラの衣装を身にまとい、そしてコスプレイヤーとしての名前を名乗りながら、現実空間でのイベントに集結することになる。

 一方で、女性のオタクには「現実の虚構化」の動きも少なからずみられる。ネタばれになるので詳細には触れないが、鉄道擬人化などはその好例といえるだろう。いわばそれは現実の対象を虚構へと読み替えていくような動きだが、自分のお気に入りの鉄道路線の開通日を、誕生日に見立ててお祝いのプリクラを取るエピソードなどが典型である。

 そもそもオタクに限らずとも、女性たちの文化には「現実の虚構化=現実の読み替え」の動向がこれまでにも存在してきた。それはどちらかといえば、オタクと対比されてきた新人類の文化の要素だが、ちょっと読みかえれば、今ココの東京が、パリやニューヨークにも感じられるような、あるいは、海外旅行に行かずとも、安近短の温泉旅行でも絶好のバカンスに感じられるような、そうしたふるまいである。

 いまやオタクといえば、男性以上に腐女子たちのほうが活気づいているように感じられるのは、こうした「虚構の現実化」と「現実の虚構化」を合わせ技で楽しむスキルを身につけているところにもあるのだろう。

 この点で本書は、大いに楽しみ笑い転げながら、腐女子の世界を深く理解させてくれる一冊である。関心をお持ちの方に広くお勧めしたい。


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