書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

『友活はじめませんか?―30代からの友人作り』木村隆志(遊タイム出版)

友活はじめませんか?―30代からの友人作り

→紀伊國屋ウェブストアで購入

再帰化する友人関係」

 本書のタイトルに含まれている「トモカツ」という言葉。これは決して人の名前などではない。漢字をあてはまると「友活」、すなわち「友達活動」の略である。

 基となっているのが「婚活」という言葉であることは自明だろう。「婚活」が初めて世に出たのは2007年で、すでに世に広まった感があるが、その意味するところは、結婚するために自覚的になす活動や行動、というものであった。

 つまり「トモカツ」という言葉が意味しているのは、友人関係もまたあえてするもの、すなわちそれをするための努力を、自覚的になすべきものになりつつあるということである。あえて、自覚的になすべき友人関係とは、いうなれば「再帰化する友人関係」ということであろう。

 こうした物言いは、特にある世代から上の人々にとっては奇異なものに映ることだろう。友人関係にせよ、結婚にせよ、普通に人生を送っていれば、おのずとできるはずのものではなかったかと。

 だが、これまで「普通の人生」と思われてきたもの、そしてそれを成り立たせていた「普通の社会」と思われていたものは、大きく変わりつつあるのだ。社会の先行きや人々の日常生活すらも、不透明感が増しつつある。それは流動化の進展に伴って、自由な選択の幅が大きく広がっているからであろう。

 決められたコースに従い「普通の人生」を送っていれば、当たり前のようにできていたことは、もはや当たり前ではなくなっている。つまり、今まで当たり前であったことは、そもそもそれを「するのか/しないか」という自覚的な判断を伴うものになりつつある。その典型が結婚であり、友人関係というわけだ。

 このように本書は、その成立の背景を社会学的に読み解くだけでも楽しいが、やはりその内容も興味深い。社会学的な背景を意識しながら、列挙された「友人の作り方」のハウツーを眺めているといろいろと考えずにはいられなくなってくる。

 ありていにいえば、やはりある世代以上のものからすれば、その内容の「当たり前にすぎる当たり前さ」には拍子抜けするのだろうと思う。というのも、友人のメンテナンスの仕方、SNSの利用法(コメントの書き方の詳細なアドバイスなど)、あるいは「友人との主なトークテーマ一覧」など、人から教えられるまでもなく、おのずと実践してきたような事柄が本書では列挙されているからだ。

 だが、やはりこうした事態を「若者たちのコミュニケーションスキルの低下」「ハウツーがなければ何もできない世代」などと紋切り型の批判の対象としてはいけないのだろう。

 先にも記したとおり、こうした「あたりまえにすぎる」ハウツーが列挙されるようになったのは、それが「教えてもらえなければできなくなった」ということ以上に、「あたりまえだったことが自覚的にやらざるを得なくなった」社会の変化を表しているのであり、加えて言えば、本書はいわゆる若者向けではなく、主として、表紙にもあるように「アラサー&アラフォー」の30~40代向けのものなのである。

 この点で、一風変わった視点から友人関係を自覚的に見つめ直す機会を与えてくれる著作としても、読者の年齢を問わず、本書を興味深く読んでみることをお勧めしたい。


→紀伊國屋ウェブストアで購入