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カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズム』(白水社)

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ポピュリズムは、需要と供給があるときに初めて力をもつ。この本で強く心に響いた箇所だ。ポピュリストという「供給者」がいるからポピュリズムが蔓延する。そう思い込んでいた。じつは「需要」すなわち人民側がうっすらと政治に期待しながら実現できないと諦めていたことや、どうしても許せない政治家への怒りにふさわしい言葉が与えられる時、ポピュリズムは台頭する。
いま、ポピュリズムがまるで敵のように書いたけれど、本書の副題にあるようにそれはこれまで「デモクラシーの友と敵」であった。友にもなる。政治を「完全な権威主義」(強い集団が決める)と「自由民主主義」(すべての人が議論して決める)を両極とする二つに分類した時、ポピュリズム権威主義の自由化、民主制への移行にも力を貸してきた。ポピュリズムは上下左右の「ホスト」イデオロギーに寄生して自由自在に姿形を変えることができる「中心の薄弱なイデオロギー」であり、移民排斥主義者の占有物ではないと知った。
歴史的にも地理的にも多様な具体例を比較しつつ、ポピュリズムの定義から民主主義への活かし方までを記した現代政治の入門書。疫病によって政治変動が起きたことは歴史が証明している。今、政治を変えたい人も、変えたくない人にも一読を薦めたい。

みすず書房 河波雄大・評)