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『The Lost Symbol』Dan Brown(Doubleday)

The Lost Symbol

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「疾走感溢れるダン・ブラウンの新作」

 「フリーメイソン、見えない大学、保安局、SMSC、そして純粋理性研究所を含むこの小説に登場するすべての組織は存在する。この小説で描かれるすべての儀式、科学、芸術作品、そして記念建造物は現実のものである)」

 2003年に出版された『The Da Vinci Code』の大ベストセラーから6年ぶりとなるダン・ブラウンの新刊は、物語が始まる前にこのように記されたページがある。

 ダン・ブラウンは前作で、記号、歴史、芸術、宗教、秘密結社の事象を組み合わせ、エンターテインメント性の高い読み応えのあるスリラーを作り上げた。

 6年を経た今回の新作の主人公も、前作同様ハーバード大学の宗教象徴学教授ロバート・ラングドン。つまりこれは、ラングドンを主人公とした『Angeles & Demons』、『The Da Vinci Code』に続く3作目となる。

 前作はキリストの聖杯の秘密をめぐっての作品だったが、今回はフリーメイソンが守る古代の謎が登場する。舞台はアメリカのワシントンD・Cだ。アメリカ建国に関わった多くの人々がフリーメイソンのメンバーだったことは周知の事実だろう。

 物語は、ラングドンが彼の助言者であるピーター・ソロモンの助手からのメッセージを受け、アメリカ合衆国国会議事堂内にある国立彫刻ホールでの講演をおこなう決心をするところから始まる。ピーターはフリーメイソンの重要メンバーでもある。

 急な依頼だったため、ラングドンはピーターが用意したプライベートジェットを使いボストンからワシントンD・Cに向かう。しかし、その日、講演などは予定されておらず、国会議事堂で彼の見たものは、切断されたピーターの手首だった。

 その手首の形と指に彫られた刺青は、古代の謎への招待を表していた。それは、ピーターの助手になりすました犯人からのメッセージであり、ラングドンは捕らえられたピーターを救い出すため古代の謎のありかを探そうと決心する。

 事件現場にはすでに、CIA保安局の局長である日系アメリカ人イノウエ・サトーが駆けつけていた(日本人としてはイノウエ・サトーという名前に違和感を憶えるが、これもある効果を狙っての名前つけ方となっている)。

 人類の歴史を変える力を持つといわれる古代の謎とは。何故サトーがすでに事件現場にいたのか。CIAの介入はアメリカ政府内部の動きを示唆するものなのか。ピーターを誘拐した者の狙いはなにか。ピーターはまだ生きているのか。

 謎が謎を呼び、ピーターの妹で人の意識と時間と空間の関係の研究をしているキャサリンも巻き込み、物語は展開していく。

 前作に劣らず、新作も疾走感溢れる優れたエンターテインメント作品だった。


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